第二セメスター:十月➀



 夏休みが終わる一週間ほど前に、成績が発表された。
 私は、初めての大学の講義で要領がつかめず、どの講義も休むことなくマジメに出席していたので、何とか単位を落とすことのない成績だった。

 上級生や知人情報だが、大学は気を抜くとサボり癖がついてしまうらしい。気付けば四年生まで講義を入れる羽目になる、なんてこともザラにあるという。
 
 天草も言っていた。大学は、単位取りゲームだ。
 例え手段は選ばずとも、四年間で卒業することが最も親孝行になる。

 何事も、初心を忘れずに取り組むことが大事だ。
 だから守るんだ。この一年生春学期のマジメな姿勢を。

 とはいうものの、すでに春学期から変わったことがあった。

 それは、私に彼氏ができた、ということだった。



***

「空ちゃん。秋学期、どう履修を組むの?」
 前に座る土屋さんは、アイスコーヒーを飲みながら問う。

「正直、まだ全然決めてません……」
 私は、ポテトをつまみながら、身を縮める。

 部活のない土曜日の午後三時。土屋さんと、街のファストフード店で会っていた。
 土曜日は、毎週十三時まで研究室があるようで、私も彼の予定に合わせ、アルバイトのシフトを午後十三時まで入れるようになったので、その後に会うことが多かった。

「それならさ、何かひとつ、一緒に講義受けようよ」

 土屋さんは目を細めて言った。思わず「えっ」と声が漏れた。
 
「や、でも、土屋さんは理系ですし……」

「共通科目なら、学部関係なく受けられるよ」
 土屋さんは、サラリと言う。

「一応、専門以外は取り終えてるけど、別にたくさんとっても問題ないからね」
 勉強にもなるし、と土屋さんは笑う。私は畏まる。

「わざわざ一緒に講義受けてもらうなんて、悪いですよ……」

「俺が、空ちゃんと一緒に講義受けたいの~」
 土屋さんは、ムッと頬を膨らませた。あざと過ぎるその行為に、私は口を噤む。

「共通科目、何があったっけ。俺、受けるの久しぶりだ」

「あ、えっと、一覧持ってます」

 私は、カバンから履修登録用の講義表を取り出す。
 机に広げると、土屋さんも覗き込む。

「心理学とか面白そうじゃん。この先生、結構単位が取りやすいよ」

 土屋さんに指差されたところに視線をやる。

「テストもレポートだし、時間も木曜の三時間目でちょうどいいし、出席点は三十パーあるけど、毎回出席するでしょ?」

 そう言って私の顔を覗き込む。その目は、拒否権なしの強さがあった。
 当然、毎回出る予定だったので、迷うことなく頷く。

「ん、じゃ、決まり。ちゃんと、登録してよ」

「はい、もちろん!」

 これから毎週、土屋さんと一緒に講義を受けるんだ。
 そう思うだけで、思わず口角が緩んだ。

 そんな私の態度に、土屋さんはニヤニヤした顔を向ける。

「どーしたの?」

「や、なんか、嬉しくて……」

 いまだに夢じゃないかと疑うものだ。一ヶ月前の自分は、まさか土屋さんと恋人になってるとは想像もしていない。

「空ちゃん、かわいいね」

 土屋さんは、私の頭を撫でる。するすると手は肌を滑り、頬、耳、と指を這わせる。
 その指使いが繊細で、思わずふっと肩が上がる。

「くすぐったいですよ」

「ふふっ、空ちゃん、小動物みたい。かわいい、かわいいよ」

 何度も繰り返す。直球で愛でられて歯痒くなった。すぐには慣れないものだ。

 土屋さんと講義を受ける秋学期も、楽しくなりそうだった。

第2セメスター 開始