第四セメスター:十二月➀



 天草と付き合って一ヶ月以上経った。
 水曜日は基本的に大学の講義が少ない。私も天草も休みなので、火曜日の部活後は基本的に天草の家に泊まりに行くことになった。

「天草……つけなくていいよ」

 熱気のこもる室内。本番に入る直前、私は言った。
 避妊具を手にとった天草は、私の言葉に戸惑う。

「え、いや、でも……」

「私、薬飲んでるから」

 そう言うと、天草ははたと静止する。数秒置いた後、訝しげな目で私を見る。

「それって、ピルってやつか」

「そ、そう」

 私は無意識に目を逸らしていた。

 天草は何も言わない。行為の前に言うべきだったか、この場の熱が冷めるようで少し後悔した。

「それって、何で?」

 しばらく経った後、天草が、こちらを伺うように問う。
 私は、数秒置いた後、口を開く。

「私、一度堕ろしたことあってさ」

 そう告白すると、天草の顔が青くなった。

 母にも言っていないことだが、一ヶ月経ち、会うたび身体を重ねるようになった今、さすがに彼氏にずっと黙っておくのは気が引けた。何より、行為中に流されてまた何も言えなくなると、天草を信用できなくなるようで嫌だった。
 完全に私の我儘ではあるが、先に打ち明けておきたかったのだ。

「それって、前の彼氏か?」

 天草の問いに、私は静かに頷いた。

「そっか……」

 天草はそれ以上、何も言わなかった。私はやり辛くなり、ふとんを被る。汗が冷え、少し肌寒い。

「ゴムよりピルの方が避妊率が高いの。中に出しても大丈夫だから。それに、やっぱり生の方が気持ちいいでしょ」

 申し訳なくなり、少しでも雰囲気を戻そうとそう伝える。
 天草は、しばらく黙っていたが、受け入れてくれたのか「じゃあ、今日から遠慮なくそのままでいかせてもらうわ」と私に覆いかぶさった。私はそのまま彼に身を委ねた。

 いつもより激しかった。私の身体を貪るように隅々まで堪能し、そして中を噛みしめるように体勢を変えては何度も擦る。

「ちょっ……天草はげしっ……んぁあ……っ!」

 激しく突かれて堪らず喘ぐ。掻き乱されて、頭がおかしくなりそうだった。快感で乱れて絡み合う。天草は体力がかなりあるようで、何回イっても止めてくれない。

「本当に薬……飲んでるんだよな……?」

 身体を揺すり、汗の滴る余裕のない顔で天草は問う。抱かれる女だけが見られる、堪らなく興奮する男の顔だ。
 
「うん……大丈夫だから……」
 無意識に締め付けていたようで、天草が堪えきれなさそうに顔を歪める。

「悪ぃ……もう出るっ………っつ!!」

 ぎゅっと力強く身体が抱きしめられる。遅れて、はぁはぁと激しく乱れた呼吸が届く。腟内でドクドクと脈打ってる感覚が伝わった。

 熱を帯びたそれがズルリと抜かれた。どぼっと私の中から白い液が溢れ出す。かなり濃くて粘度の高い精液だった。彼の性欲が目で実感できて、何だか嬉しくなる。

 ティッシュで拭っていたが、呼吸の落ち着いた天草が「まだだ」と私の腕をひいた。

「え、でも……」

「まだ、全然元気なんだけど」

 思わず目がいく。確かに抜かれた時も元気なままだった。

「もう一回」
 
 天草は、有無を言わさず私の身体を引き寄せる。正直体力も切れかかっていたが、私はできるだけ彼に応えた。 
 その夜は、何時間身体を重ねたか覚えていない。

「今日の天草、いつもと違った」

 空が薄ら白んできた頃、ふとんに入りながら告白する。天草はやりづらそうに顔をそらす。

「悪い。なんか、めちゃくちゃ嫉妬した」

 天草は、頭をかきながら言う。私は目を丸くするが、恐らく中絶のことだと気づいた。

「ちょっと、というか結構びっくりして。おまえに彼氏がいたのは知ってたし、初めてじゃねぇだろなってわかってたが、なんか生々しく感じられて、すげえ嫉妬した」

 天草は、思考しながら口にする。
 何も答えられなかった。何を言ってもただの言い訳にしかならない。
 私は、天草の腕に身体を寄せた。

「ごめん、でも、隠してるのも嫌だったの」

「いや、こっちこそ。隠されてたほうが嫌だった。言いづれぇことなのに、ありがとうな」

 天草は、引っ付いた私に応えるように額にキスをすると、そのまま頭を引き寄せた。
 彼の手は私の頭がすっぽり覆われるほど大きく、包みこまれた感覚になった。

「天草って、意外と性欲強いよね」

「身体がでかい分な」
 天草は、よくわからない理屈を持ち出した。

***