一月【睦月 赤夜】4



一月十四日。
開花予定日四日前となると、死神は自由に開花のタイミングを選択することができる。

風呂上りが一番清潔であれば、洗浄した野菜が一番新鮮であるもの。
開花のタイミングを操ることができることからも、質の一番良い状態である手入れの済んだ直後に花を咲かせることも可能だった。

開花のタイミングを操るだけで、直接手を下しているわけではない。

「開花する」という運命は、ほぼ変わらないのだから。

基本的に対象が自宅いる場合は、家の外から観察することが多かった。
対象には姿が見られることから家の中に入ることまではできない。

昨夜に再び寒波が訪れたことで、周囲は銀世界となっていた。
だが、死神は気温が感じにくい為、雪が積もろうとも特に支障はなかった。

「今日は家庭教師が来るみたいね」
リンは、分厚いハードカバー本をめくりながら言う。

「告白するって気合入ってた人間か」
ゼンゼは、中古紙利用の漫画雑誌をめくりながら言う。

睦月の自宅玄関前に人影が現れる。
小柄ながらも背筋を伸ばし、清潔感あふれる装いだった。ひと目で「育ちが良い」と判断できるほどの印象を抱く。
女性はインターホンを鳴らすと、ドアを開けて中に入った。

「さすがにあの女は、レベルが高すぎるんじゃねーのか」

ゼンゼは苦笑しながら言う。「闘牛を、特別観覧席から見下ろす位置にいるような人間じゃねーか」

「確かにね」

そう答えつつも、リンの頭の中では、案外いけるのではと考えていた。
目標に猛突進する睦月の性格からも、根拠はなくとも、不可とは言い切れなかった。

おそらく今頃、家庭教師の女性にも模試結果を報告しているだろう。着実に彼の願望を叶えることに近付いているはずだ。

リンは内心安堵していたが、数時間後に予想外のことが起きる。

***