1時間目:社会4



風呂を済ませ、二階の部屋へ戻る。転居してきたばかりで、部屋の隅にはいまだ段ボールが積まれている。父の新調してくれた真新しい勉強机が年季の感じられるこの部屋には浮いていた。

勉強机に置きっぱなしにしていたスマホを手に取る。電源を入れると、何件かメッセージが届いていた。

登録していないIDから連絡が来ていたが、そういえば西久保と連絡先を交換していたなと思い出す。案の定、相手は彼女だった。

『西久保です! これからよろしくね』

あっさりした文と共に可愛らしい女の子のスタンプが届く。文面の軽さから彼女の明るさが感じられる。

『こちらこそよろしくね』

できるだけ軽く返信すると、すぐに通知が来る。

『そうだ。クラスのグループ作ったから招待するね』

そのメッセージと共に『桜鼠中一年四組』と記載されたグループ招待通知が届く。二十人クラスだが、すでに十人以上参加していた。

自己紹介するべきか迷っていると、『南雲莉世ちゃんです! よろしく~』と西久保が紹介してくれた。それに続き、他の人から『よろしく』とのメッセージが届く。歓迎されたことに歯痒く感じ、莉世も『よろしくお願いします』と送信した。

そんな中、『すげ~揃ってる!』と発言するものがいた。名前を見ると、東 佐之助(アズマ サノスケ)と書かれている。今日、西久保と言い合っていたあの活発な少年だ。

『揃った?』と誰かのメッセージ。

『苗字。東西南北!』

莉世は、メンバーを確認する。莉世の名字である南雲の「南」、西久保の「西」、東の「東」を難なく見つけ、発言をしていないが、「北条 蒼(ホウジョウ アオイ)」という名前の人物がいた。アイコンは設定されておらず、名前から男子か女子かはわからない。

『くだらな~い』

西久保は反応した。莉世も思わず失笑する。

一人も知り合いのいない環境だっただけに気が抜けた。特に東と西久保のおかげで一応クラスに馴染めそうな気はした。求めていた平穏な日常だ。騒がしいクラスになりそうだ、と無意識に笑顔になる。

時計は午後十一時半を回っていた。スマホの電源を切り、布団を敷く。寝床が完成すると、電気を消して布団に入った。

茫然と天井を眺めていたと気付き、溜息を吐く。眠るのが恐かった。

「昔はこんなんじゃ、なかったのにな……」

悪夢を見るようになったのは、ここ一年ほどのことだ。それまでは、むしろ好奇心旺盛で怖いもの知らずでもあった。

だが、今では警戒心が勝り、身体が拒絶反応を示す。

行動したら、危ない目に遭うかもしれない。

参加したら、襲われるかもしれない。

見てしまったら、受け入れなければいけない。

悪夢と、同じように。

全身が震える。布団を頭まで深く被った。

幽霊は信じていないが、普段温厚な祖母にも忠告されたんだ。この街では静かに生活すると決めていた。できるだけ目立たず過ごし、イレギュラーは起こさない。最低限やるべきことのみこなして生活するんだ。一応その為の環境も整いつつあるのだから。

そんなことをぼんやり考えていると、次第に瞼をとじていた。

☆☆☆