3月*三ヶ原 弥生


桜色に染まる道を歩いていた。先週までは防寒具の外せない気候であったにも関わらず、こうも季節は過ぎるのが早い。それだけ時間の流れを感じていた。

「もう、この道を歩くのも、最後かなぁ」
隣に歩く美歩はぼんやり呟く。

「そうだね」

私は手に持つ紙袋を握り直しながら答える。「この制服を着るのも最後だし、学校に行くのも最後」

「ついこの間、高校生になったと思ったのに、本当に一瞬だったね」

「感傷に浸ってるんだ」

「まだ実感湧かないけど」

確かに一時間前に式を終えたばかりだからか、まだ実感はわかない。

大学では、「クラス」といったくくりはなくなり、「制服」といった縛りもなくなると聞いている。今までとはがらりと変わる、自由でラフな学園生活になることも想像ができなかった。

本当に私は、卒業してしまったのか。

空を見上げる。傍にある桜の樹からの便りで空はピンク色に染まり、新しい門出を祝福しているかのようだった。
ちょうど三年前の春も、ここで同じく空を見上げていたなと思い出す。もうあれから三年も経ったのか。
時の流れは遅いのか早いのか。

「昨日まで毎日当然のように顔を合わせていたのに、明日からクラスに集まらないと考えると、なんか不思議な感じ」美歩は言う。

「ね。みんな大学でこの地元を離れちゃうし、もう集まることもなくなるのかな」

共感のつもりで、何気なく言った。
しかし、美歩は驚いた顔で私を見る。

「弥生。泣いてる」

「え、嘘」

慌てて頬を拭うと、確かに頬に伝うものがあった。
自分の身体であるにも関わらず、どうして涙が出ているのか理解できない。

「あはは。弥生、結構クールだけど、実は結構、寂しく感じていたんだね~」

美歩は表情を崩して笑う。
そんな彼女の目にも涙が浮かんでいた。