第三セメスター:四月⑤



「メンヘラだね」
 
 水曜日の午後、ファストフード店内。
 隣に座る土屋さんは、ポテトをつまみながら断言した。

 私は、部活動中のことを話していた。いや、むしろ毎回土屋さんが聞いてくるので、報告に近いかもしれない。

「承認要求が強くて、自分を認めてほしいだけじゃん。死にたいわけじゃないのに、オーバードーズしたり腕切って見せつけるところもさ、典型的。メンヘラのファッションだよ。死にたいなら湯船に腕突っ込むくらいすればいいのに」

 土屋さんは理系脳を働かせて言った。他人に対しては辛辣だ。
 私は土屋さんを横目で窺う。相手を傷つけることは良いのか、と喉まで出かかった。

「それよりもさ」

 土屋さんは、表情を一変して険しい顔になる。「金城と一緒に帰ったってどういうこと?」

 私はあっと顔を歪める。話の流れ上、一緒に帰ったことを口にしてしまった。

「や、一緒と言うか、路線が一緒だから、偶然一緒になっただけだよ。金城、土屋さんと同じ路線だから、ほんと偶然」

 慌てて弁解する。「それに金城は、月夜のことが好きなんだし」

 土屋さんは、面白くなさそうに顔を背ける。嫉妬しやすいとは付き合った時に言われたが、最近男の人の話題を口にするだけで嫌な顔をされるようになってしまった。

 愛情表現、とも取れるが、正直そこまで疑われるのか、とも思うようになった。そのたびに信用されてないのだと悲しくなる。

 土屋さんは四年生になり、就活も始まった。講義はほぼ取り終えてるようだが、教職を取っているので、教育実習などがあるようだ。研究室や卒論も始まるようでかなり忙しく、それでも週に一回は会っていた。

 最近は、会うたび泊まりとなった。正直彼と付き合ってから毎週外泊だ。最初こそ私も積極的だったが、さすがに半年以上その生活を続けると金銭的にキツい。もはや外泊が当然になってしまった今は、もう少しゆとりをもたせたかった。
 だが断ると、一緒にいたくないのかと拗ねられる。どうしてそんな極端な思考になるのだ、と少し呆れてしまう。

 こんな私は、冷めているのだろうか?
 私の愛が、足りないのだろうか?

 一年前の私は、まだ未知の世界にワクワクしていたというのに、慣れって、改めて恐いなと感じた。

***

「あ、金城」

 月夜と学内を移動している時、金城を見かける。「と、フン」

 彼の隣には、当然のように水谷さんがいた。もはや今ではお馴染みの光景になってしまった。ごめんなさい、と思いながらも金魚のフン、金城のフンと頭で連呼する。

「金城も八方美人だよね。嫌ならもっと表情に出せばいいのに」

「そうね」

 月夜は、素っ気なく返す。気のせいか、水谷さんのことになると、普段以上に塩対応になる。
 反応を見るつもりだったが、続ける言葉も思い浮かばないので、それ以上は触れないことにした。

 意外と嫉妬しているのだろうか。
 恐らく部活動中も、水谷さんはずっと金城と一緒だ。話し相手が奪われた感覚は、月夜の中にも少なからずあるのかもしれない。

 だが、残念ながら月夜の無表情からは、正解が導き出せなかった。

***

「空ちゃん、誕生日はどこにいきたい?」

 週末、土屋さんは、ホテルのベッドに寝転びながら尋ねた。
 私は、隣で室内サービスのパンフレットを見ながら思案する。

「多分、当日はどこもいっぱいだから、別にいいよ」

 私の誕生日は五月三日。ちょうどゴールデンウィークに当たるので、確実にどこも混んでいる。
 誕生日を祝ってもらえるのは嬉しいが、それ以上に人ごみの中、外出するのも気が引けた。

「じゃ、今週どっか行こうか。当日はご飯でも行こう」

「行きたいところかぁ……」
 私は思い浮かべる。「テーマパーク行きたいかも」

 何回でもあげるよ、と火野さんから再びチケットをもらっていたことを思い出した。また、テーマパークは、初めてデートで行った場所だ。初心にかえるのも良いかもしれない。

 土屋さんは満足そうに頷くと、そのまま私に絡みつくように身体を寄せると、キスをした。私は手元のパンフレットを置き、彼に応えるように、腕を回す。
 土屋さんは当然、私の生理周期も把握しているので、生理が終わったばかりとも把握していた。
 服が脱がされ、本能でからみつき、欲望のままに身体を弄る。快感が訪れ、ひとつになり、何度も愛を重ねた。部屋の電気を消すことも忘れているが、羞恥心はもはや消えている。むしろ表情がよく見えるので、明るい方が愛されていると感じやすい。
 普段は大人だ。たくさん愛して、たくさん可愛がってくれる、たくさん気持ちよくしてくれる。セックスすると、土屋さんに心から愛されていると実感できるんだ。

 クリスマス以降、ゴムをしなくなった。中には出していないと信じているが、少し不安はあった。だが付けてと言うと、いつしか土屋さんは不機嫌になるようになった。行為中の雰囲気を壊すのはこちらも気を使う。でも理解してくれないので、最終的にこちらが折れるしかなかった。
 それに、薄い製品でもつけるかつけないかで全然変わる。それは土屋さんも感じることのようで、私も同意することだった。

 好きじゃないのか、と疑われる。
 愛してくれてないのか、と拗ねられる。
 そうじゃない、と言っているのに、理解してくれない。

 私は、愛情表現に困っていた。

***