チラチラと粉雪が舞っている。
辺り一面、白くて硬い雪に覆われ、時折吹く北風には身を刺すほどの冷気を孕んでいる。
寒気から自然と身が縮こまるも、この街に雪が降るのは珍しいことから、少し高揚している自分がいた。
師走とはいえ、先週までは防寒具の必要のない気候であっただけ、急激な冬の到来に、いまだ身体が追い付いていなかった。毎年思うが、春と秋はないに等しい。
「ごめん。お待たせ」
サクサクッと雪を踏み鳴らす音とともに、焦燥の感じられる声が響く。
振り返ると、白い息を吐きながら申し訳なさそうに眉を下げる拓弥が立っていた。
「この雪だから、仕方ないよ」
昨晩の大雪で公共交通機関に遅延が発生していた。
待ち合わせの時間から二十分ほど過ぎているが、周囲に確認できるいまだ溶けない雪と防寒具を身につけているので、特に不満は感じなかった。
「むしろ、わざわざこんな日にここまで来てもらってごめんね」
「いやいや。今日は楽しみにしていたからさ」
拓弥は屈託のない笑顔で笑うと「さ、早くお店に行こう」と私の手を取り、そのまま自身のダウンポケットに突っ込んだ。
六年も隣を歩いていたことから、その行動がもはや自然となっていた。
ヒュルリと冷たい北風が吹く。しかし握られた手から感じる体温が心地よく、次第に体内に眠気と安心感が巡った。
「やっぱり、お店にしてよかったね。もしライトアップにしていたら、ちょっと寒さできつかったかも」
拓弥はははっと笑いながら白い息を吐く。
「だね。というか、もうそんな元気はないかも」
「ある程度は、元気のあるうちに行ったもんなぁ~」
拓弥の気の抜けた声に、私は目を細めた。
「寒いし、雪降るし、身体も動かなくなるし、冬ってあまり好きじゃない」
「でもこうして一緒にくっついてたら寒くないよ」
私は握られた手から伝わる熱を感じながら答える。
拓弥は一瞬キョトンとするも、満足そうに笑みを浮かべて前方に向き直った。
握られた手はさらに強く握られ、外の寒さも感じなくなっていた。