海に辿り着く。
空も海も青く澄み、すっきり晴れた海日和だ。天候に恵まれたものだ。
更衣室に辿り着くと、私たちは、買いたての水着に少しの緊張と高揚で腕を通す。
水着は、スクール水着しか持っていなかったので、合宿で海に行くと知ってから同学年の天文部女子だけで水着を買いに行った。
合宿の為に、皆で水着を選ぶ。そんなイベントすらも楽しかった。
店員さんいわく、胸の小さめな人にはチューブトップタイプの水着が似合う、とのこと。女のプライドにかけ、中々喜んでいいのか複雑なところだ。
初めて買った水着。いわゆるビキニで少し露出が多く、下着のようで少し恥ずかしい。
月夜は大ぶりなフリルのついたデザインで、ロングスカートの水着が様になっていた。とてもエレガントだ。
あっとそこで顔がひきつった。太ももの火傷跡と私がつけた傷跡が目に入る。
土屋さんに、短いズボンやスカートがはけないように、と付けられた跡だ。彼の思惑通り、この痕がついて以降、私は丈の短めなボトムスは履けなくなった。追い打ちをかけるように私自身がつけた傷跡もうっすら残っている。
水着を選ぶことに気をとられて、跡のことをすっかりわすれていた。太ももの露出したデザインのものを選んでしまった。せめて月夜のようにスカートで隠せるものにするべきだった。
着替の手が止まったことで、月夜が私を窺う。視線を辿り、太ももの跡に気がついた。
「これが、例の、ね」
そう言うと、月夜はカバンから何かを取り出して私に差し出す。
カットバンのようだが、水分を含み、高級そうな見た目だ。一見皮膚のようにも見える。
「わかりやすく言えば、高い絆創膏。皮膚と馴染む見た目だし、ケガの治癒も促す。そして濡れても剥がれ辛いから、水場作業でもよく使用される」
月夜は、淡々と説明する。不器用ながらも彼女なりの気遣いだろう。月夜は、意外と人を見てる。
「うん。ありがとう」
私は受け取ったカットバンを火傷跡の上に貼る。本当に皮膚のような見た目で、かなりの至近距離でないと見分けがつかないほどに肌に馴染んだ。
久しぶりに痕のない脚を見て心が晴れる。今だけは現実を忘れさせてほしい。
水着を着用すると、外へ出た。目前には海が広がっている。空が反映し、視界一色澄んだ青だった。
沖縄で見る海は、他の海とは違い、どうしてこれほどまでに美しいのだろうか。
思わず見惚れていると、騒ぐ声が届く。海辺には、すでに水着姿の部員がビーチボールや浮き輪を所持して遊んでる。天草たちの姿もある。普段とは違う格好で妙に高ぶる。
少しの緊張を孕みながら、海へと向かう。日に晒された砂浜の砂利がサンダルに滑り込み、足元が不安定だ。
天草たちは、私たちに気づくと、水着に面食らったのか一瞬静止する。ラッシュガードを羽織ってるとはいえ、普段より露出の多い水着姿を異性に見られるのは少し恥ずかしい。
「おっ、女子の水着、いいね〜」
誰かが調子の良い声を上げた。言語化されると余計に意識する。まだまだ子どもだな。
「あ、向こう空いてるから、あっち行こっか」
私は、露骨に顔を背けて歩き始める。皆も後に続く。月夜だけは、周囲とは空気感が違い、おもむろに砂浜を歩いていた。
脚にまとわりついた砂を洗うように海に足をつけた。
「つ、冷た〜!」
「気持ちいい〜」
次々声が上がった。
海の水を手ですくう。青く見えた海も、近くで見ると無色透明だった。
「沖縄の海ってやっぱり違うよね」誰かが言う。
「なんか特別というか、言葉にできない」
月夜の姿がないな、と後ろを振り返る。彼女は海に入る為に、砂浜でロングスカートをサイドにくくっているところだった。そんな所作でさえ絵になっている。
ふと、月夜の後ろを通った知らない三人組の男性グループの人が、彼女に目を向ける。そして流れるように彼女に声をかけた。
私は慌てて彼女の元による。
私たちよりも年上な三人の男性に囲まれてもなお、月夜の表情は変わらない。
と、そこで男性グループの後ろから、天草や金城たちがこちらまで向かってきた。特に金城は足早に近づくと、月夜と男性たちの間に立ち、何やら話をする。
ほどなくして、男性グループの人たちは月夜から離れた。険しい顔をしていた金城は、月夜に顔を戻すと、笑顔でパラソルの下までエスコートした。
そんな様子を、茫然と眺めていた。
「ナンパか」
部員の子が言った。「地咲さん、美人だもんね。私たち女が見ても美人だと思うし」
程なくして、天草たちが私たちの方へ向く。その手にはビーチボールを持っている。
「おまえら、ビーチバレーやらね?」
「やるやる!」
私たちは、天草たちの元へと向かう。月夜はビーチパラソルの下、金城と休憩していた。
しばらく海を堪能すると、宿へと向かった。
***