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「機嫌、悪い?」

一瞬、自分に向けられた言葉だと気づかなかった。ワンテンポ遅れて顔をあげると、机を合わせた班の人たち三人が、こちらを怪訝な顔で窺っていた。

「応援曲の候補、班ごとに提出だからさ。夕雨(ユウアメ)さんも、なにか意見あるかなって思ったんだけど」

リーダーの子が、訝し気に説明した。私は脳内で慌てて弁解の言葉を探す。
違う。なにか案を出さなければと考えていただけだよ。

「おまえが『スイカに塩』をゴリ推すから、なにも言えなくなったじゃん!」

「だって夏といえば、この曲しかねぇだろ!」

「夕雨さんは、日本の曲なんて知らないって」

だが、私がそれを口にする前に、班の人たちが茶化しはじめた。黙った私をフォローしてくれているのかもしれないが、話題にあげられると、逆に響くものだ。街中で転んだときに、優しい言葉をかけられると泣いてしまった過去のように。
私は、弁解の余地なく、目前の会話を聞き流していた。

結局、班のひとりの推しグループの楽曲が班の意見として提出される。

そんな光景を、私はただただ眺めることしかできなかった。
『檸檬と彗星』