その後、警察や救急隊員の話から、ナツは足を滑らせて川で溺れたことが死因だと判明する。
誰も真実を知る術を所持していないことから、何故、遺体が川のそばに上げられていたのか言及はされなかった。
だが、私には何となくあの死神の仕業ではないのか、と思っていた。
あの後、合宿は中断され、その日の内に帰宅していた。
ナツとの突然の別れに、先輩も同期も現実を受け入れられていない様子だった。それだけ彼女への信頼の厚さが感じられる。
そして数日経った今日、すでに夏戦は開けて二学期が始まっていた。
今日も授業と部活動を終えて帰宅し、部屋のテレビでは、もう何度再生したかもわからない『REBELS』を流していた。
主人公の青年の目の『異常』が『能力』となる場面を茫然と眺めながら呟く。
昔から人懐っこいナツではあったが、この街で再開した時にはさらに私を気にするようになった、とは思っていたが、まさか私の言葉が彼女に影響していたとは思わずに歯痒くなる。
あの少女も言っていた。
どうせ見えるなら、活かしてしまえばいい。
「能力を活かす、か……」
あの漫画どこやったっけ、と部屋内を探し始めた。
***
都会である虹ノ宮市は、眠ることがない街として知られている。
しかし、少し入り組んだ道に入ると、場所が変わったかのようなひっそりとした雰囲気に変わるものだ。
住宅街の並ぶ小道の角にある個人経営の花屋前。
赤髪の少女と銀髪の青年の姿がそこにあった。
「この世界では、『花言葉』というものがあるらしい」
赤髪の少女、リンは、目の前に並ぶ花を見ながら言う。
「例えばこの花、マリーゴールド。黄色は裏切り者のユダが着ていた服の色に当たることから『嫉妬』という花言葉がついていたりする」
そう言って、黄色くてまあるいフォルムの花を指差す。
「おもしろいもんだぜ。特に、この赤いバラなんてものは、本数で意味が変わるらしい」
そう言いながら銀髪で眼帯の青年、ゼンゼは目前の赤いバラを十四本手に取ると、リンに差し出す。
「この意味は?」
「てめぇで調べてみるんだな」
ゼンゼは尖った歯を見せて嗤う。リンは真顔のまま、バラを受け取る。
「ありゃ?バラはどこいったんだい?」
奥の部屋で作業をしていたおばちゃんは、目を丸くして叫ぶ。
「トシ!まだ陳列していないのかい」
「え、もう準備終わったってさっき言っただろ」
「何言ってんだい。すっからかんじゃないか」
店主であろうおばちゃんと息子が会話する様子を、二人は興味深気に観察する。
「よく考えるとよ、花が金銭で売買されるって、普通に残酷だよな」
人身売買野郎だ、とゼンゼは、おばちゃんを指差す。
正面から指を指されているにも関わらず、彼女は全く気づく様子がない。
無邪気にはしゃぐゼンゼを無視して、リンは思案する。
【清水 夏帆】の花が咲く直前、彼女は川の近くに咲いた花に目を落としていた。
「対象は、友人に何の花を贈ろうとしていたのかしら」
覚えているのは、印象的な花の色だけだった。
直接見ればわかるのでは、とただの好奇心から二人は花屋に訪れていた。
「何だろうな。でも、あの花の色は綺麗だった」
「えぇ」リンは目を細めて同意する。
「あの空と同じような、きれいな青だった」
シーズン2【清水 夏帆】完了