序①




あぁ、死んでしまおう。

珍しく雨だな、と外を眺めながらふと思った。真夏ということもあり、湿気が通常よりも鬱陶しく身体にまとわりつく。クーラーのリモコンを手に取り、設定温度を少し下げた。

何か情報が欲しい時は、ひとまず検索エンジンを利用してきた現代っ子だが、今回は直視できそうもない画像が出てくる予感がして気が進まなかったので、無い知識を振り絞って考える。
死ぬ為の手段は何があったか。

まずは、電車への飛び込み。
駅のホームから飛び込むだけで、特に下準備などはいらない。今から手ぶらで向かってもサクッと行えるだろう。

しかし、これは身内に一番負担のかかる方法だと、知識の乏しい私でも知っている。確か、その後の人生が潰れるほどの賠償金を支払うことになるとか。
たかが私の命一つでそんな重荷を家族に背負わせられるわけがない。
だから、これは考えるまでもなく却下だ。

次に、ビルからの飛び降り。
この方法は、マンガやドラマの世界でもよく見られる気がする。いや、よく見られるというのは、ありきたりだとかそんな風に捉えているわけではない。あくまで手段の話だ。
その理由もわかる。高いビルに上るだけで、下準備もいらなければ、身内に莫大な金銭的負担を強いることもない。

しかし、ビルからの飛び降りとなると、身体が地面と接触した際、モザイク処理が施されるほどのグロさになるに違いない。もちろん現実だから、モザイクなどかからず、全て晒け出されるわけだ。
ビルとなればまず都会である必要があり、人は常にいるだろう。そんなグロテスクなものを全く関係のない街の人たちが目撃したらどう思うだろうか。
少なくとも、グロ画像が出ることに怯えて、検索のできない耐性のない私にとったら、一生もののトラウマになるに違いない。

それに、今はネットの普及した社会だ。何度かSNS上で、『自殺の瞬間』といった悪意のある動画が出回っている、というニュースも見たことがある。いくら死後とはいえ、そんなもののネタになどされたくはない。
私がグロテスクに死ぬことで、関係のないその他大勢を巻き込む可能性があるのならば、これも却下だ。

次は、首吊りだ。
この方法は、縄と椅子を用意すればいい。縄はホームセンターに行けば入手可能だし、椅子も家にあるもので賄える。身内に金銭的負荷がかかることもなければ、周りの目を気にする必要もない。

しかし、一瞬で終わるだろうか。首吊りは首の骨が折れて、即座に息絶えると聞いたことはある。死刑にも用いられるほどだ。
だが私は素人だ。経験なんてあるはずもない。もし、縄の結び目がほどけたら、首から縄がずれていたら、椅子が上手く倒れなかったら。
どんくさい私のことだ。宙吊りにでもなれば、醜い姿で足掻くに決まってる。

それに苦しい思いはしたくない。一人、部屋でジタバタしている姿を思い浮かべると、滑稽な姿だとアホらしく思える。
また失敗したことで気が抜け、再チャレンジする意欲もなくなるだろう。そうなると、死ぬことさえ諦めることになってしまう。
確実に、一瞬で済む保証がないのであれば、これも却下だ。

 

自分で実行できなければ、誰かにお願いするか。
顔見知りに頼めるわけがないので、フィクションの世界でよく聞く「殺し屋」というものに依頼することになる。
少なくとも、少なくないお金が必要になるが、恐らく二年は外に放り出されても生きていける貯金はある。どうせいなくなれば不要になるものだし、全財産つぎ込むことも厭わない。

それに、殺し屋とくれば殺しのプロだ。一瞬で苦しむ暇なく終わらせてくれるだろうし、死体の処理だって跡形なく済ませてくれるだろう。グロテスクな場面を誰にも見せることもなければ、この家が事故物件になる懸念も生じない。

しかし、本当に殺し屋は実在するのだろうか。そもそも存在したとしても、表舞台で堂々と仕事ができないはずだ。
検索したところで、上位に上がったサイトほどよく利用されている人気会社、でもないだろう。もしかしたら大金だけ奪われて殺されない、詐欺の可能性もある。私が貯金をはたくのは死ぬ為であり、詐欺師に渡す為ではない。いくら死後に不要になるといえど、それは躊躇われる。

かといって、腕利きの殺し屋を知っているわけでもない。残念なことに、一般的に平凡的に生きていたので、その道に通じる友人だっていない。
そこらに「殺し請負ます」なんて張り紙が出されたり、チラシが入っていた経験もない。
依頼ができないので、これも却下だ。

身内に迷惑がかからず、痛みも感じず、確実に終わらせる方法は意外にないものか。

そう思った時に、ふと以前読んだミステリー小説で用いられていた「練炭自殺」を思い出した。記憶にあるのは、部屋の隙間をガムテープで塞ぎ、練炭に火をつけ、睡眠薬で眠っている間に、一酸化炭素中毒によって安楽死を迎えられる、というものだったはずだ。

これならば、身内に金銭的負担はかからず、私の身体が目を背けるほど悲惨な状態にもならない。苦しむ必要もなければ、確実に終わらせることができる。

これでいこう、と決めてさっそく準備に取りかかる。いくつか調達しなければならないので、外出の為に着替え始める。

帰宅したら、もう外に出ることはないんだな、と気づく。それならばお気に入りの服でも着ようかと思ったが、特に気に入っている服などはなかった。しかし、一度考えるとすぐに頭から離れず、どの服を着るかで結局悩むことになった。

結果、何となく学校の制服を着ることにした。