第二セメスター:十二月➂



 クリスマスは、全て土屋さんに捧げた。
 イブは、火野さんからもらったテーマパークのチケットで過ごした。
 明日のクリスマスは、展望台で空を見上げる予定だ。

 テーマパークを楽しんだ後、もはや行き慣れたホテルへと向かった。

「クリスマスだと高くなるし、どうかなと思ってたけど、やっぱ来ちゃったね」 

 土屋さんは苦笑する。確かに部屋選択に示す金額が、いつもの倍はしていた。

「ほんとだ…やっぱり クリスマスってすごいんですね」

「まぁイブの夜は『性なる時間』って言われてて、一番ベッドインしてる人が多い時間だって言われてるし」

 俺たちもその割合に入っちゃうね、と土屋さんは私に顔を寄せる。ぼっと顔が赤くなった。

 だが、クリスマスイブという特別な今日は、たとえ高くても一緒にいたかった。

 私たちは部屋を決めると、指示に従って入室した。

 初めてのクリスマスで考えていたことがあった。
 いつも幸せをくれる土屋さんに、少しでも喜んでほしかった。

「じゃ、お風呂入ろうか」

 何度来たかわからないホテル。初めと違い、一緒に入浴するのもためらわなくなった。
 だが、今日は拒否した。

「何で?」

「今日は……先に入ってください」

 私はじっと瞳で土屋さんに訴える。土屋さんは首を傾げながらも「ま、そこまでいうなら」と浴室へと向かった。

 土屋さんが浴室へ入ったことを確認すると、私は部屋をクリスマスの飾り付けをした。そして私もクリスマス衣装に着替えた。

 自分からコスプレするなんて恥ずかしすぎる。だが、何度かホテルで無料コスプレレンタルをした際、土屋さんはとても喜んだ。

 少しでも土屋さんにかわいいと思ってもらいたい、と考えての精一杯の行動だった。

「あがったよ~……って、え」

 部屋に戻ってきた土屋さんは、部屋を見て目を丸くする。「空ちゃん?」

 その声で、私は棚の隙間から飛び出す。土屋さんは、私を見た瞬間、静止した。

「メッ、メリークリスマス、昴……さん……!」
 そう言ってプレゼントを差し出した。

 私は、事前にサンタ衣装のコスプレを購入していた。そしてこの衣装でプレゼントを渡そうと決めていたのだ。
 プレゼントは、ベタにマフラー。ブランドものでもない、高くないものだったが、彼に似合いそうな黒ベースのオシャレなデザインだった。

 だが、我ながららしくないことをした。爆発しそうなくらいに恥ずかしい。
 
 反応がないことに不安になり、恐る恐る顔を上げると、土屋さんは私を見たまま、静止していた。

「つ、土屋さん……?」

「……ねぇ、なんなの?」
 低く、冷静な声で言う。

「え?」

「ずるくない?」

 そう言うと、土屋さんは私を勢いよく抱きしめ、そのままベッドに押し倒す。
 余裕は感じられず、無理やり倒されたかのような衝撃がきた。

「きゃっ」

「何なの空ちゃん……かわいすぎるだろ……」

「ちょっ、土屋さん……!」

 土屋さんは欲望のまま私の身体をまさぐる。理性が飛んだかのような激しい行動で、少し怖く、そして少し興奮した。
 スカートを滑らせ、胸を揉む。太ももを撫でる。首筋を唇で這わせる。

 完全にいつもの土屋さんじゃない。理性が飛んでいるようだ。
 硬いものが押し付けられる。私は自分がしたことに今さら顔が赤くなった。

「わかる? もう勃っちゃった……ねぇ、責任取ってよ」

 土屋さんは、衣装を楽しみながら、私の身体を堪能する。普段とは違う激しくて余裕のない彼の愛撫に、妙に興奮してしまった。

「空ちゃんも、すごいよ。興奮してるの?」

「だって、土屋さんが激しいから……」

「空ちゃんのせいだから」

 衣装を着たままひとつになったのは初めてだった。乱れたワンピーススタイルを楽しんでくれているようだった。

 衣装を着てることで、いつもより汗をかく。愛液も止まらず、身体の絡む匂いでさらに性欲が湧き上がる。

 もみくちゃになり、何度も快感が訪れ、彼しか考えられなくなる。

 クリスマスイブに、大好きな人と愛を感じる。
 今はどこの世界の誰よりも自分が幸せだと感じていた。



***

 朝起きて洗面台に向かうと、身体のそこら中にアザができてた。土屋さんにつけられたキスマークだった。

「こんなにつけて……」

 だが、口元は緩んでる。内心嬉しかった。それだけ自分が彼に落ちていくのがわかる。

 ベッドに戻ると、土屋さんが私を引き寄せた。肌が密着し、いまだ残る昨夜の熱を感じる。

「空ちゃん……絶対離さないから」

 土屋さんは、きつく抱きしめる。

「絶対絶対離さない……何があっても一緒にいる……だから」

 そう言うと、土屋さんはふっと起き上がり、近くの棚に手を伸ばしてタバコの火を近づけた。
 ふうっと一服をすると、スッとタバコを持つ手をこちらに向けた。

「絶対にとれないアト、つけてもいい?」

「え」

 そう言われると同時に、ジュッという熱さが訪れる。同時に目の前がバチバチと火花が散った。

 土屋さんが、タバコの火を私の太ももに押し付けていた。

「あっつい!!」

 痛みに思わず涙が零れる。

 熱くて肌が焦げる感覚。近くにあったコップの水をかけるも、痛さがとれない。
 肌が痙攣している。唸るような声を上げても痛みは消えない。

「何で……こんなこと……」

「根性焼き、絶対とれないでしょ」

 土屋さんは虚ろな目で満足気に笑う。そんな彼に恐怖を感じた。

「ふふ、空ちゃんが悪いんだよ……空ちゃんが、俺をたくさん愛してくれるから……空ちゃんがいないと、生きていけなくなったよ。だからこれは、印。痛くしてごめんね……でも、どうしても消えないアトが欲しかったんだ」

 土屋さんは、私の足元に顔を寄せ、跡のついた太ももを撫でる。

「キスマークは消えるし、指輪も外せば意味がない……これで、俺の前以外じゃ、短いスカートやズボンははけないね」

 ゾワッと悪寒が走った。撫でられた肌も鳥肌が立ち、恐らく土屋さんにも伝わっている。
 そんな私に気づいた土屋さんは、私を優しく抱きしめる。

「空ちゃん、大好きだよ……俺、空ちゃんがいないと生きていけないんだ。だから、もし離れたら許さないよ」

 恋人と過ごす初めてのクリスマス。

 輝かしいカップルイベントに、私は、とんでもなく愛の重い人を好きになってしまったと気づいてしまった。

第2セメスター:12月 完