体育館内は緩慢な空気が流れていた。
校長の中身の無い長い挨拶と、体育館の暖房の無いこの場所から、生徒たちは皆、肩を縮こませ、手を揉み苦痛を耐えていた。ある意味、拷問に近いかもしれない。
そんな朝礼も終え、生徒たちは小さく息を吐きながら教室に戻る。
金曜日だからか、授業中も皆、机に伏せたり頬杖をついて窓の外を見たりと気が緩んでいる。
しかし、そんな中でも一人、背筋を伸ばして黒板を注視し、一心にノートに板書する生徒がいた。
「オレ、白扇高校いけそうっすか……?」
職員室、睦月は担任の先生に不安気に問う。
担任は睦月の模試結果を見ながら軽く頷く。
「そうだな。この判定だったら何とかいけるかもしれないな」
「まじっすか!」
睦月は顔を輝かせて両手でガッツポーズを取る。
「春の頃と全然違うぞ。この冬休みに何があったんだ。正直、先生も驚いてるよ」
担任の先生も感心して拍手する。
「じゃあ、願書も」
「あぁ。明日には届くだろうから、締め切りの十七日までにはちゃんと提出するんだぞ」
「ハイッ!」
睦月は目を爛々と光らせて返事した。
「十七日って確か、開花予定日だよな」
窓の外から様子を見ていたゼンゼは、隣の隣に問う。
「……そうね」
リンは顎に手をやり。思案しながら答えた。
***
「オレ、まじで受験いけるかもしんねぇよ! これもアカガミ様の力だ!」
帰路につく睦月に接触すると、すぐに彼は満面の笑みで報告した。
「私は何もしていないけれど」
リンは無表情のまま答える。
「冬休み前まで白扇なんて絶対無理だって言われてたんだ。でもオレ、見てろよ〜って、闘争心湧いてきてガムシャラにやってたけど、やっぱ俺バカだし。で、大晦日に天満宮に無理矢理連れて行ってもらったんだけど、その時に初めてアカガミ様見たからさ」
睦月は興奮気味に説明する。
「最後の砦だったんだけど、やっぱり神様に頼むのってすげえな。まじで感謝するぜ」
「私は何もしていない」
「神様っているだけでご利益があるんだろ。ほら座敷わらしだって見るだけで幸福になるとか言うし」
「神様と妖怪は違うわ」
「似たようなもんだろ」
睦月はあっけらかんと言う。
僅に嫌悪感を示すリンに、頭上の木の上から会話を聞いていたゼンゼは、「義務教育中の牛だ」とニヤニヤ嗤いながら宥めた。可憐に躱せ、繊細にいなせ。
時は一月十一日。開花予定日まであと六日となっていた。
***