「先生に判定結果を報告してないの?」
数時間後、家庭教師の女性が帰宅し、睦月が外に出たタイミングで、リンは思わず声をかけていた。
彼は、昨日確認した時よりも雑草が増えていた。未練となる要素が増えたことを表している。
家から出てきた睦月は、「アカガミ様!」と笑顔で反応したものの、すぐに浮かない顔に戻った。
「まだ言ってないつーか、言えないつーか」
「言えない?」
「なんかオレ、すげえガキだなぁと思ってしまって」
睦は頭をかきながら告白する。リンとゼンゼは首を傾げる。
「茜さん、今週成人式だったらしくてさ、色々話聞いたり写真見せてもらったりしたんだけど、段々オレがスゲェ子どもに思えてきてしまって。まだ中学生だし当たり前なんだけど。でも、やっぱ大学生って全然違うなって」
睦月は滔々と語る。
「私服もおしゃれだし、振る舞いもマナーとかきちんとしてて大人だし、お酒もタバコも運転もできるし。そんな人間が周りにいる中で、オレってさ」
今の睦月は、明らかに自棄になっていた。
まるでエンジンの切れた車のように、闘い疲れた牛のように、憔悴しきった状態だった。
全力疾走で走っているときに足をひっかけられたかの如く。普段、前しか見ていない彼だからこその反動のように感じられた。
そんな彼に、どこか落胆しているリンがいた。
「大人は何十年と大人でいられるけれど、中学生でいられるのは、たった三年間だけだわ」
リンは冷静に答える。睦月は顔を上げてリンを見る。
「先のことなんて考えたって意味がないわ。今の自分がいなければ、明日の自分はいないのだから」
根拠の感じられない漠然とした言葉はキザに感じられる。
だが死神の彼女が口にするのは、重みがはるかに違う。
睦月が数日後に死ぬ、とわかっているのだから。
リンの言葉の重みを感じたのか、睦月は表情を反転させて「そうだな!」と胸を張った。
「何、しょぼくれてんだろ。オレらしくねーよな。ははっ、またアカガミ様に助けられてしまったぜ〜〜! よっし、願書出したら報告すんぞ〜!」
最後の足掻きだ、と睦月は身体を反転させて自宅へと戻った。
「良いこと言うじゃねぇか」
ゼンゼは軽く頷きながらリンに声をかける。
「彼には期待しているのよ」
リンは冷静に答える。
普段なら、未練が判明した時点で死神の力を使い、人間の願望を叶えてきた。
だが、まっすぐに突き進む彼の姿を見たからこそ、どこまで突き進むのか見てみたくなったのだろう。死神が手を差し伸べるのは、むしろ野暮というところだ。
リンはそう感じたからこそ、いまだ手を出してはいなかった。
「彼は前に進む力が十分にある。今回の私たちは、反転した身体を前に向けさえすれば良い」
一月十七日まで、あと四日。
稀に開花予定日よりも早咲きになることもある。
予期せぬ開花の為にも、睦月には今を一番に生きてもらうことが理想だった。
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