真っ青な空に、大きな入道雲が映える。
天高く響き渡るブラスバンドの声に、快音が鳴るたびにどよめく観客席、球場にいる全員が一心に白球を追っていた。
画面越しでも熱い空気が伝わり、僕らを震撼させた。
甲子園という場には何かが宿っているだなんて言われているが、まさにその通りだ、と毎年観るたびに感じるものだ。
「おまえ、高校どこを目指してんの?」
練習帰り、僕の家に訪れていた琢也がソーダアイスを齧りながら問う。
「紫野学園かなぁ」
僕は画面に写る学校名を眺めながら答える。
琢也は「やっぱ紫学か~」と間延びした声を上げる。
「まだ歴史は浅いけど、監督が良いんだろうな~。こうして甲子園に出てるわけだし」
そう言って琢也はテレビに顔を向ける。「でも私立だしな」
「学費的な?」僕は問う。
「そうそう。親が許してくれるかが問題」
「たしか推薦あったはずだけど。特に紫学は」
紫野学園は、部活動に力が入っていることで有名だ。
だからこそ、逸材を手に入れる為に部活動の推薦枠は他の私学よりも規定が緩いと聞いている。
奨学金が出るのはもちろんのこと、学費全額免除だなんてものもあったはずだ。
「俺、推薦もらえるほど上手くねーしなぁ」
琢也はいまだ納得いかないようにぼやく。
「公立でも甲子園出てるところあるよ。花埼美満だったかな」
過去の記憶を思い出しながら言うが、琢也は「いや、そもそも野球続けてるんかな」とやりずらそうに答える。
「続けないの?」
予想外の言葉に目を丸くする。
「だってよ、高校野球って、なんつーか中学の時とは比べ物にならねぇくらいレベルが上がるだろ。みんなベンチ入り狙ってギラギラしてそうだし、野球のことしか考えてねーような野球バカしか生き残れねぇって。せっかくの高校生活なんだから、彼女欲しいし遊びにも行きたいしバイトもしたいってなったら迷うところがあるっつーか」
「そういうものなんかぁ」
僕はどの高校にいけば夢の舞台に立てるかだけを考えていたので、恐らく彼の言う「野球バカ」に該当するのだろう。
「圭は才能あるから良いよなぁ」琢也は不貞腐れた調子で言う。
「自分に才能があるだなんて思ったことないよ」
「才能が無けりゃ、U15に選ばれなんかしねぇよ」
純粋に練習した結果なだけだ。
がむしゃらに努力をしているのではなく、そこに夢中になれるような好奇心さえあれば練習は苦痛だと思えなかった。
だが、これを口にするほど僕は配慮のできない人間ではない。
窓から覗く真っ青な空を見上げる。
二年後の今頃は、この景色があの場所から観られているだろうか。
三年間のうちに一度でも良いから土を踏むことを目標に、僕はボールを強く握った。