9月*九条 菊


廊下窓の外から、部活動に勤しむ人たちの叫ぶ声が届く。目に優しい温かみのある穏やかな陽の光と、少し肌寒い秋風からも、日中とは色の違う顔を見せていた。
放課後時間まで学校に残る経験がほぼなかっただけに特別な時間に感じる。

「明日で終わるかなぁ」

友人の美穂が、床で模造紙に筆を走らせながらぼやく。

「あと、それで終わりでしょ?」私は彼女に顔を向けて答える。

「うん。でもさ、まともにリハーサルしてないじゃん」

美穂は唇を尖らせて言う。「前日に初めて全部の小物を使って通しでやるなんて、どれだけ気が抜けてるんだって」

私たちは明後日から始まる学園祭に向けて準備を進めていた。
だがうちのクラスは部活動やバイトで放課後まで残って準備を進めるほど気合の入った人たちが少ない。
現に今も教室内にいるのは、買い出しでいない人を除けば私と美穂だけだ。

「だから私たちみたいな、帰宅部が残らされてるんだよね」

「帰宅することが帰宅部の使命なのにさ、帰宅させられないんだからひどいよね」

確かに他の人たちは部活やバイトを理由に早退している。理には適っている。

もう一度、窓の外を見る。クラスメイトのユニフォーム姿も、教師たちの休憩している様子も、帰宅部なだけに中々見ない光景だ。

「でも私、案外嫌じゃないよ」

素直に呟くと、「ま、私も」と美穂が嬉々と返す。

「帰宅部だからさ、こんな時間まで残ることないし。暗くなった学校ってちょっとテンション上がるよね」

「肝試しみたいで」

最近は学校の閉まる二十時まで残っていることがほとんどだ。その時間には日が暮れて暗くなっている。
そんな学校内を歩くのもまた愉快だった。

「明日で終わりかぁ」

美穂は大きく伸びをすると、再び模造紙に筆を走らせた。