新入生歓迎コンパが始まった。いつものイベントよりも倍以上の新入生がいる。恐らく勧誘チラシを配った際の天草の対応のせい、いやおかげだろう。
新入生が増えれば増えるほど私たちの支払う金額が増える。先輩になってから気づいたことだ。
だが、昨年は私も新入生切符を活用したものだ。意外とお金を払うのは気持ちが良かったりする。何よりイベントを通じて部員が増えるのは大歓迎だった。
普段より人数が多いからか、今日は立ち飲みバーのような場所だった。座る場所がないことに落ち着かず、常にグラスを持って会話しなければならない。
金城は、新入生の相手をしながらも、月夜の隣をキープしていた。二人は同じ班だが、こういう場でないと中々二人で話す機会がないかもしれない。お酒のある場は何かと気が緩むものだ。
私は、そんな二人を横目に見る。
金城を素直に応援したかった。
一年一緒に活動してきた中で、金城からは全くと言っていいほど欠点が見当たらない。頭も良く、人付き合いも上手い。人の嫌がることには進んで行い、友人も多い。少し体力はなさそうだが、そこが人間味があり、また弱みを受け入れている彼自身も出来過ぎていた。
金城なら、月夜も心を許してくれるのでは、と思っている。
***
四月下旬。新入生歓迎イベントが全て終了し、本日から本格的に部活動が始まる。今日は自己紹介の日だ。
部室には、入部を決めた新入生たちが三十人ほど来ていた。私たちと同じくらいの人数だ。毎年これくらいは入部するのかもしれない。
新歓イベントは全て出席したので、大抵の新入生は見たことがあった。イベントを通じて入部を決めたのなら嬉しいものはない。
「おっ、結構人集まったな」
天草がドアを開けるなり言った。
彼の癖のある声に「あっ、天草さんだ」と新入生の一人が声を上げる。天草は流れるように新入生の集まりに近寄った。昨年先輩に色々教わったことを伝授したのだろう、天草はかなり慕われているようだ。
「あれ、そういえば金城は?」
二年の集まりまで来た天草に声をかけると、あぁ、と顎に手を当てる。
「四時間目がゼミの顔合わせっつってたから、もしかしてそっちが長引いてんのかも……」
そう言ったタイミングでガラッとドアが開く。
「遅くなってすみません」と金城が軽く頭を下げながら入ってきた。
「あ、噂をすれば」と無意識に私。
「おう、遅かったな銀河……」
天草は、軽快に挨拶するが、ふと表情を変える。「その子は?」
「あぁ、水谷さん。天文部希望だって」
金城は、後ろにいる女性に手を向けて紹介する。彼の後ろには、小柄な女性がいた。
リボンで結んだゆるめのツインテールに、ピンクと黒を基調とした可愛らしい服。ベージュのカバンにも大ぶりなリボンがついている。黒目がちの二重はくりっとし、百五十センチも満たない小柄で小動物のようにも思えた。
いわゆる「地雷系」と呼ばれるファッションだが、それが彼女を構成する要素と言わんばかりにお似合いだ。彼女の周りだけは別空間が生まれている。
「俺と同じゼミでさ。 少し話した時にウチに興味持ってくれたからさ」
金城は、笑顔で説明する。
確かに彼女は新歓には一度も来ていない。むしろ女子の少ないこの部活では、彼女のようなファッションの子だと印象に残るはずだ。
見学も無しに入部を決めるほど、金城との会話が弾んだのではと考えた。
「おっ、入部希望?」
火野さんは、彼らに近寄る。
水谷さんは、火野さんに気付くと、小さく肩を飛び上がらせて金城の背中に隠れた。金城は困惑する。
「水谷さん、うちの部長だよ」
「あはっ、こわい? 大丈夫、あたし女の子には優しいからさ。取って食うわけじゃないって。でも、かわいいね~」
火野さんは、金城の後ろに隠れる水谷さんを揶揄うように見る。水谷さんは、警戒するように金城の背中から火野さんを観察していた。
第一印象、ボディタッチが多い人。
失礼だが、異性ウケはするが、同姓の友人がいないタイプに感じた。何というか、少し苦手なタイプかもしれない。
金城は、私たちの元までくるが、その後ろに水谷さんもついてきた。
「一年生は、向こうに集まってるけどいいの?」
私は、左側の新入生の集まる位置を指差して言った。
悪気があって言ったわけではないが、無意識に棘がある言葉になった。
水谷さんは、私を観察するようにジッと見る。ビー玉のようなクリっとした目に吸い込まれそうになった。
反応のない彼女をフォローするように金城が口を開く。
「水谷さん、ちょっと人見知りみたいでさ。だからしばらく俺と一緒にいたいって」
「はぁ」何とも情けない声が漏れた。
「よし、じゃ、時間なったし、始めますか」
タイミングよく火野さんがそう言ったことで、活動が始まった。
新入生が順番に自己紹介する中、やはり水谷さんは目立った。
耳をすまさないと聞こえないか細い声、愛らしいファッション、緊張からかプルプル震えるか弱そうな小動物のような容姿に、守ってあげたくなる気持ちが芽生えるものだ。案の定、男の部員たちは、鼻の下を伸ばしている。
そんな単純な部員を、私は一瞥する。
演技だな、と思ってしまった。
明確な根拠がないくせに、彼女はネコを被っているに違いない、と決めつけていた。だが女の勘は、大抵当たる。
水谷さんに何かされたわけじゃないのに、どうしても合う気がしなかった。
どんな人でも仲良くなれる金城を尊敬する。自分は改めて、器が小さいな、と感じた。
***