「俺のためにわざわざ集まってくれるなんて、ありがたいな」
夜の大学キャンパス内。テラスに集まる部員たちを見回しながら金城は笑う。
「しばらく会えないから、みんな惜しんでるんだよ」私は噛みしめるように言う。
今月末には、金城が留学で日本を発つ。 その為、先週のミーティングで天草が金城の送別会名目の有志観望会をしようと提案した。
今は、十二月の夜。冬場は凍結で山には入れない為、大学内テラスで一晩過ごす。
うちの大学は、申請をすれば夜間も活動が可能だ。山に近いこの大学からでも十分、きれいな空は見えるものだ。
出来過ぎた金城は、同期はもちろん後輩にも慕われている。普段の有志観望会よりも参加人数が多い。
当然といえば当然か、月夜も来ていた。
「大学からでも十分、星は見えるよな〜」
天草が空を見上げながら言う。
「ほんとに。すぐ裏が山だもんね」金城が頷く。
白い息を吐きながら、自販機で購入したコーンポタージュをすするもの。コンビニに行ってきたものは、肉まんをかじっている人もいる。誰かがずりぃと声を上げた。
「スバル、入ったよ〜」
望遠鏡を弄っていた人が叫んだ言葉に肩を震わせた。
昴。
久しぶりに聞いたその名前に、思わず顔が曇る。
途端、頬にヒヤリとした感覚が襲い、思わず飛び上がる。
振り返ると、月夜が私の頬に手を当てていた。
「ちっべたい! 何すんのさ!」
「空の頬、温かそうだなって」
「それにしても、手、冷たすぎない?」
「私、末端冷え性だから」
月夜が真顔のまま、手をニギニギさせる。「さすがに冬の夜は寒いね」
「そうだね。冬場は中々イベントもないしね」
「でも、空がすごくきれい」
月夜が空を見上げた。つられて私も空を見上げる。冬の空は空気がすみ、星がきれいに輝いていた。
冬の空は、一等星が多く、四季の中で一番騒がしい。気候の関係で中々集まり辛いが、皆と一度は見上げてみたかったのだ。
「ベテルギウスって爆発するって言われてるんだっけ」月夜が言った。
「いつ?」天草が問う。
「地球から観測できるのは、一万年後とか」私が答える。
「生きられてるかな」
金城は、苦笑しながら反応した。
「もはや人類が生き残ってるかすら危うい」
月夜も僅かに微笑んだ。
「だったらなおさら、カノープスは見ねぇとな」
ふと、天草が言った。一年の合宿で皆で話してたことだ。金城や月夜も思い出したような顔をする。
「来年、銀河が帰ってきたら、四人でカノープス探しにいこうぜ」
「それ、良いじゃん」
私は、天草に賛同する。
「就活前の思い出作り」
月夜がぼそっと言う。
「現実、思い出させるな」
天草が苦虫を噛み潰したような顔で反応した。
「俺はまだ一年遊べるな〜」
金城は余裕そうな表情で笑った。
何気なく話していたが、ジワジワと金城がいなくなることを実感した。他の人たちも同じ気持ちなのか何も言わない。
「一年、か」
とうとう天草が呟いた。「やっぱ、長ぇな」
「確かにな」金城は目を細める。
「寂しいな」
私はついに言葉にしてしまった。
沈黙が訪れる。白い息だけが冬の夜空に消えていった
「空だけは、同じだわ」
ポツリ、と月夜が呟いた。その言葉に私たちは反応する。
「どこにいたって、上には変わらない空がある。例え離れても同じ空の下にいるのよ」
「確かに、そう考えると心強いよな」天草は笑う。
金城は、この場の空気を噛みしめているのか、ただ頷いていた。
「向こうはどんな星が見えるんだ?」天草は問う。
「カナダだし、あんまり変わらないかな」金城は首を捻る。
「月は、見えるのかな?」私は横目で問う。
「見えないんじゃ」
「そうなの?」
月夜の返答に、金城は困ったような表情になる。そんなくだらないやり取りすら心に染み渡った。
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