第四セメスター:十二月➂



 次の日の夜は、天草の家で金城と月夜を呼び、四人で宅飲みをした。
 もう明後日には、金城が日本を発つ。昨日の延長線、仲間内の二次会、ということで初めて宅呑みをした。

「帰ってくるの、来年の年末だよな」
 天草は、ピーナッツをつまみながら問う。

「うん。ちょうど一年だね」
 金城は、酎ハイを飲みながら答える。

「そうか。なら帰ってきたら、カノープス探しに行くか」

「いいね。ちょうど冬だし」
 私は天草に賛成する。

「でも、私たちはもう引退してる」
 月夜が天井を見上げて呟く。

「そうだな。だからプライベートで。ダブルデートになるかはお前ら次第」
 天草は口角を上げて嫌味を言う。金城は苦笑する。月夜の顔は変わらない。

 滅多に感情を見せない月夜が惚れた出来過ぎた金城だ。恐らく来年も一緒にいるだろうことは何となく予想はしていた。

***

「映画館のメシは、映画が始まる前に食べ終わるよな」

 そう言いながらムシャムシャホットドックを食べる天草。私は、ポテトを食べていた。
 
 久しぶりのデート。今日は映画を観に来た。
 映画は天草の家でもよく観る。暗い室内で恋人と観る環境、正直、最後の方は映画をまともに観られていないが。
 そのシリーズ最新作が公開されたので観に行くことにした。

 ちなみに、映画館のCMは観る派なので、基本的に入場開始時刻には映画館内に待機している。

 映画が終わり、感想を述べながら夕食を取る。いつも通り、この後は、彼の家に泊まりの予定だ。
 帰宅の電車に乗ろうとするが、そこで天草が何か考え込む。

「どうかした?」
 
 そう問うと、天草は顔を上げる。

「明日、三時間目からだったよな」

「そうだけど」

「なら、午前中はゆとりあるわけだ」

「そうだけど?」

 私が首を傾げると、天草が少しやり辛そうに口を開く。

「外泊、しねぇ?」

 そういえば、天草は下宿で、ホテルに泊まったことがなかった。
 何度もセックスしてるくせに、恥ずかしいのか少年のようにそっぽを向く天草を見て、思わず私まで照れくさくなった。

「あ、天草がいいなら……」

「おうよ」

 そう言うと、天草はスマホを取り出す。

「お、すぐ近くにあるわ」

「この街なら大学にもすぐいけるしね」
 
 ホテルへ向かう前に近くのショッピングモールで適度に買い出しを行うと、ホテルへ向かった。



 初めて来たのか、天草はどこかソワソワした面持ちでナンバープレートの隠されている駐車場を見る。初めて来た時の私を見ているようで、土屋さんも同じ気持ちだったのかな、と思わず思った。

 料金は、一万円いかない程度とまずまずの価格だ。街中であるだけ仕方ない。天草と相談し、適当に空いた部屋を選択する。

 内装は、お値段以上だった。広い浴室には光るジェットバス付きの浴槽、アメニティも女性の為にパックや入浴剤なども全て高級感溢れる。ベッドもとても広く、シルクのようなキメの細かさのあるカバー、壁紙は乙女心を擽る華やかな模様だった。
 土屋さんと訪れていた時は毎週通っていただけコスパ重視だったので、久しぶりに豪華な内装のホテルで一瞬でテンションが上がる。

「すんげぇな〜。マジで夢の国じゃん」
 同じく部屋を探索していた天草も目を輝かせながら言う。

「あ、ねぇねぇ、朝食モーニングあるみたいだよ」

 しばらく部屋を堪能した後、ソファ前の机に置かれたパンフレットを指差す。それに気づいた天草は、どれどれと眺め始める。

 朝食サービスの予約には締切時間がある。浮かれすぎて朝食サービスの注文を忘れるだなんて、勿体無いことはできない。実際、夜遅くにホテルへ入った際など何度かやらかしたことがあった。

「朝食もめちゃくちゃ豪華だな。旅館で出てきてもおかしくねぇだろ。これもタダかよ」天草が目を見開いてメニューを見る。

「確かに、鍋とか凄いね」

 私は高揚感で溢れる天草の横顔を一瞥する。
 彼は以前、会話の中でセックスが初めてだと言っていたので、恐らくホテルも初めてだろう、と内心思っていた。だが、さすがにプライドを傷つけたくないので、できるだけさり気なく、そして流れるように誘導しているつもりだった。

 ダイヤル九番にモーニングの予約をすると、浴室へ向かった。

 天草は身体が大きいが、一緒に入ってもまだ余裕があるほど広い浴槽だった。ジェットバスのスイッチを入れるとライトが光り、投入したバブルバスがみるみる泡立つ。
 私も女だ。きれいだったり可愛かったり、ちょっとしたことでテンションが上がる。

「ほんときれいだよね。すごいしか出てこない」
 私は、風呂の泡をすくいながらはしゃぐ。

「ヤバいよな。ヤバいしか出てこねぇ」
 天草は、同じく語彙力のない言葉で返答する。

 しばらく泡風呂を楽しんでいたが、やがて天草は、私の身体を引き寄せる。そしてそのまま、私の身体を嗜み始めた。正直興奮していたので、そのまま彼に身体を預ける。

 きれいな浴室で恋人と裸。当然、何も起きないはずがなく、蒸気で満たされた浴室は次第に熱気でこもり始めた。
 入浴剤とボディソープの清潔感ある爽やかな香りと愛の滴る甘い香りが絡み合い、お互いの欲を満たし始めた。

 浴室から上がり、フワフワのバスローブを着用してリビングに戻る。コンビニで購入したお酒とおつまみを広げてテレビをつけた。

 同じくバスローブを着用している天草は、私の隣に座ると、ビールをカシュッと片手で開けながらメニューを手に取る。

「安いな。何か食おうかな」

 天草は、ゴキュッと美味しそうなのどごしでビールを飲みながら呟く。

「確かに。私も少し減ったかも」

「一発ヤると相当カロリー消費するもんだ」

 ゴンッと頭を叩く。何も間違っちゃいないド正論だが、私は下ネタがあまり得意ではないのだ。

 天草は、悔しそうにビールを飲み直すと、カバンからタバコを取り出す。「吸っていいか?」

「お好きに」

 天草は、タバコを加えると、ライターで火をつける。深く吸い込み、そして深く息を吐いた。
 その様子を、呆然と眺めていた。

「何だよ」
 天草は、やり辛そうに顔を歪める。

「ううん。タバコ吸ってる姿が好きなだけ」
 私は正直に答える。

 タバコを吸いたいとは思わないが、吸ってる人を見るのは好きだった。

「部屋の中で吸うって、中々優越感あるわ」
 天草は天井を眺めながら呟く。

 その後は、適当に注文してカロリーを胃に入れた。

 時刻は二十三時。久しぶりのホテルに気分が高揚していたが、朝から外に出て、お腹も満たされ、お酒も回り、頭がボンヤリとし始めた。
 天草は、無料のコスプレレンタルに興味津々だった。

「なぁ、これ着てみねぇ?」
 天草が、にやけを隠さない表情で言った。

 指さされた箇所を見ると、なんとスクール水着だった。

「ちょっと待って、どんな趣味してんのよ」

「すげー唆る」

「ロリコン」

「男って基本的にロリコンだぜ」
 天草は、ゲス顔を隠すこと無く露出する。お酒がかなり回っているようだ。

「ちゅ、注文したければ勝手に注文すればいいじゃん」

「言ったな」
 
 天草は笑うと、受話器を手に取り、注文した。本当に注文しやがった。

 届いた衣装を、私はしぶしぶ彼に着けてもらう。

「胸、でっか」

 天草は、できた谷間を見て言った。

「水着がピッタリしすぎなんです」

 天草は、水着で寄せられた胸の谷間に顔を埋める。荒い呼吸の後、ヒヤリとした舌の感覚。いつもと違う場所に衣装で私も内心興奮していたのかもしれない。

「変態……」
 私は、堪らず言う。正直自分も興奮してるだなんて言えない。

「変態だぜ。だからもう勃っちまったわ……」

 私に甘えるように抱きしめると、そのまま私の顔を引き寄せた。
 私はそれに応えるように、彼の首に腕を回した。

 私の衣装とはかけ離れた大人な絡みつくようなキス、灰の香りの奥にアルコールの苦味を感じた。唾液が混じり合い、次第に思考が回らなくなる。
 天草の唇は、唇から頬、耳、首筋と次第に下に滑り始めた。水音が鳴るたび堪らず声が上がる。

 すっかり冷えた身体も、次第に熱を帯び始めた。

 ソファ上で喘いでいたが、天草はハッと身体を起こすと、私の身体を抱きかかえた。

「ちょっ……」
 突然の浮遊感に、私はバランスを崩す。

「せっかくすげぇベッドあるんだからよ。つかおまえ軽すぎ」

「あっ、天草が力持ちなだけ」
 
「それだけが取り柄だしな。おまえは細すぎる」

 優しくベッドに下ろされる。何気にお姫様抱っこされたのが初めてだったので、無性に歯がゆくなった。恥ずかしいような、嬉しいような。

 天草は、部屋の照明の明るさを落とし、私に覆いかぶさると、「じゃ、続き」と目の色を変えた。

***