「まぁでもあたしも明日はリンくんにご馳走してもらうんだよね」渚は上機嫌に語る。
「マネージャーさんと?」私は驚いて問う。
「うん。いつも仕事頑張ってるからってさ。ちょっといいところ連れてってくれるんだって」渚は頬に手を当てながら説明する。
私と蓮は呆気に取られていた。
クリスマスイブのディナーに誘うという行為は、そんな気軽に行えるものでもないはずだ。
美子も渚も深く考えていないだけに、外野の私たちがソワソワしてしまう。
***
部屋に戻ると同時にスマホが鳴った。
画面を見ると、蓮からだった。
『今、会える?』
私は返信するよりも先に、部屋を飛び出していた。
「哀ってさ、直接来るよね、いつも」
部屋まで向かうと、蓮が苦笑して出迎える。
「や、だって、すぐ近くなんだから返信するよりも早いなって……」
この一年間は、ビデオ通話やメッセージのやりとりはしていたものの、距離が離れているだけ内容は濃いものだった。
素っ気ない短文が、すぐ近くに彼がいると感じられたのだ。
室内に入ってドアが閉められると同時に、身体に温かい体温で包まれた。
「ちょ、ちょっと蓮……」
「一年分の、充電」
蓮は小さく囁く。
子どものようなとろんとした甘い声に全身がかぁと熱く反応した。
私は蓮の腕に手を添える。この一年間、ずっと感じたかった変わらぬ温もりが心地良い。目を閉じ、全身で彼を感じた。
私は身体を反転させ、蓮と向かい合って改めて抱きつく。大きな背中に骨ばった骨格が男の人だと感じられてトクンと脈を打つ。
蓮が傍にいる安心感から眠気が襲った。
蓮は私の顎を引き寄せてキスをする。柔らかく唇を噛み、舌で歯がなぞられる。荒い呼吸と唾液の混ざる水音が室内に響き、頭がぼうっとし始める。夢中になり、いつの間にか彼の首に腕を回していた。
蓮は私の背中に手を添えてベッドに私を寝かせた。影になった彼の顔がさらに色っぽく感じて再び胸が鳴った。
私だけが見られる顔だ。ずっと、ずっと見たかった顔なんだ。
「蓮……おかえり。ずっと会いたかった。……待ってたよ」
自然と口から漏れていた。彼への愛しさが溢れ、感情が抑えきれなくなっていた。
「待たせてごめん。哀、好きだよ」
そう呟くと、蓮は再び唇を重ねる。先ほどよりも乱暴で、無我夢中に私を求めた。
熱い声が漏れるたびに全身が高揚し、理性が保てなくなる。
シャツの中に感触が襲ってびくりと反応する。彼の大きくて温かい手が、私の全身を優しく撫でた。
「れ……蓮……あっ………」
「無理、ごめん。もう本当に無理……」
蓮は子どものように繰り変えす。
「こんなに一年長いと思わなかった。もう我慢の限界だったんだ……もう絶対、離れないから」
「蓮……」
「哀……………愛してるよ」
蓮は今まで見たこともないほどの優しい顔でそう囁くと、私の身体に身を沈めた。
安定した天気なんてものはない。地球がある限り気まぐれに天候は移り変わり、そして私たちはそんな波を乗りこなして生活しなければならない。
不安定な気候であろうとも、ひとつ確実に安定しているものがある。
あまりにも単純で、当然で、自然のことだから時々忘れてしまうのだろう。
それは、どんな場所でも同じ空の下、ということだった。
Day10 完