新年が始まる。哀たちの初詣は毎年、近所の藍川稲荷神社だったが、今年は地元から離れた天満宮に姿があった。
すでに受験は済んでいるものの、「学問の神様」に合格報告に訪れたようだ。
「三年振りか」
奏多は大きな鳥居を見ながら呟く。
「だね。奏多は高校受験なかったし」哀は答える。
奏多は中学から緑法館の生徒だったことから、高校受験を経験していない。
「でも前来た時も、雪積もってたよね。それにさっきまで雨も降ってたし」
奏多は周囲を見回しながら言う。
昨晩、記録的な豪雪で辺りにはいまだ雪が積もっていた。地元である虹ノ宮では中々雪が降らないだけに珍しい光景だ。
「そういうジンクスなのかな」
「僕たちが参拝に訪れる年に限って。それもあえて前日に」
二人は物珍しそうに周囲を見回しながら本堂へと向かう。
「今年はみんなと会ってないの?」
哀は何気なく尋ねる。
「沙那とは会ったよ」奏多はあっさりと答える。
哀は無言で彼に振り向く。「随分、進展したようで」
「お陰様でね」奏多はやけくそに肩を竦める。
「観測ってさ、実際観測者がその場所に立たないと正確なデータが測れないものなんだよね。だからまた、その時が来たら奏多の方から報告待ってるよ」
「気が向いたらね」
白い雪が太陽の光に照らされ、雪解けを促している。
先ほどまでのにわか雨も相まって辺りがキラキラに輝き、哀たちの歩く道を示していた。
「三年前と言えば、あの時の哀は観察してるだけで幸せって言ってたよね」
奏多は思い出したように口にする。
何気ない会話を覚えられていたことに哀は歯痒そうに顔を歪める。
「今だって変わらないよ。幸せそうな人を見るのが好きだし、基本的に晴れの顔を願っている」
歩く人たちが足を止めて頭上を見上げている。
つられるように哀も顔を上げるが、そこで目を見張る。
「すごい……久しぶりに見たかも」
頭上には大きな虹がかかっていた。
昨日の豪雪や一時間前のにわか雨により、大気のチリが落とされ、より一層鮮やかに輝いている。
「天気って本当に読めないよね……昨夜は大雪、一時間前は雨降ってたのにさ」
奏多も空を見上げながら呟く。
「同感だよ。でも」
哀は額に手を翳して目を細める。
「それぐらい気まぐれの方が、退屈はしないや」
「気まぐれ天気、恋予報」 完