10月*十倉 神無


頭上には雲ひとつない青空が広がっていた。
だが真夏のように蒸し暑い湿気は感じず、肌を照らす日差しも心地良い。時たま吹く風には冷気を孕み、並木道を彩る落ち葉の軽い音は程よく耳に快感をもたらした。
これが「秋晴れの空」というものだろうか。

「体操服で学校に向かうのって、なんか特別な感じだよね」

隣から陽気に呟く美保の声で正気に戻る。
彼女に顔を向けると、少し大きいメッシュ素材のジャージから楽しそうに笑みを浮かべていた。

「だね。これだったら校門前の制服チェックも引っかからないし」私は美保に波長を合わせる。

「確かに。運動は面倒だけど」

学校が近づくにつれ、同じジャージを身に纏った人物が増える。あちこちから軽い声が飛び交い、みな普段とは違うイベント行事に気分が高揚しているのだとわかる。

校門右側には大きく「体育祭」と記載された看板が立てられ、頭上には、紙の装飾品が飾られていた。
普段とは違う色に心なし気分が躍る。

「もういっそ、卒業までジャージ登校にさせてくれないかな~」
隣の美保も気分が良いようで、軽いことを言う。

今日は校門前の制服チェックも行われておらず、対照的に校舎には派手なカラーの横断幕が掲げられていた。
普段なら面倒くさいと流していたが、そこでふと思う。

今年最終学年であることから、普段は面倒だと流していた学校行事全てが最後になる。
来年もまだ学生ではあるものの、大学では学園祭はともかく体育祭なんて行事は高校までしかないものなのだ。
何故いきなりこんな風に感じたのかはわからない。少し肌寒い秋風から、脳が冷やされていたのだろうか。

「でも、せっかくのラストJKだから、それはそれでもったいないかも」

そう答えると、美保は少し間を置き「それもそっか」と笑った。

「うちの制服、かわいいもんね。着られるのは高校生の特権だし」

「ジャージで放課後過ごすのもなんかダサいし」

下駄箱の扉を開く。冷ややかな感触とギシッと乾いた鉄の音が、もうすっかり秋だと告げていた。