時刻は、午後六時〇分。
近くの時計台の鐘の音が響いたことで、今日の特訓を終えた。
神社を後にし、莉世は東と西久保の二人とわかれ道まで歩く。
「あ〜くっそ。脚だりぃ」東は、太ももを擦りながら言う。
「鬼神の攻撃、避けてたよね。見えてたんじゃん?」西久保は問う。
しかし東は「いや、見えてねぇよ」と悔しそうに首を横に振った。
「でもよ、松風と左門っつったっけ。あいつらの攻撃は読めるようになったんだよ。地面が割れたり、風が吹いたり、だから次はこっちから来るなっていうのとかが、何となく」
「野生の勘ってすごい」莉世は苦笑する。
「でも今日の特訓で、あたしも少しこの本についてわかった」そう言って西久保は術書を両手で掲げる。
「日向っち、見た目は怖いけどすっごい優しい人だったな。良い大人の女性って感じで、かっこよかったし」
「日向っちって」
莉世は苦笑する。すっかり鬼神と打ち解けたようだ。
「なんか鬼神って、怪異って感じしなくない?」
西久保は開き直ったように答えた。
「南の南雲は、何をしていたんだ?」
東は問う。莉世は言葉に詰まった。
莉世は今日、操の能力で夢がいつ現実で起こったのか記憶を遡っていた。そのお陰でいくつかわかったこともあった。だが、そもそも彼らには、自分に未来を視る力があるとは伝えていない。正直、自分でも疑う事柄だが、二人に信じてもらえるだろうか。
もう目を逸らさないと決めたんだ。莉世は大きく息を吸うと、二人に向き直る。
「私、実は……未来を知る力があってさ……」
「未来を知る!?」
東と西久保は目を見開いて答える。莉世は一瞬躊躇うが、おずおず口を開く。
「正直、私も疑ってる。でも、前に病院に行ったのも……」
「スゲェな南の南雲! スーパー転校生じゃねぇか!」
「莉世ちゃんに、まさかそんな力があるなんて!」
二人は、莉世の弁解を聞かずして反応する。
簡単に受け入れられたことに莉世は呆気にとられる。
「し、信じてくれるの?」
「あぁ。怪異が本当にあるんだから、そんな能力のひとつやふたつ、あってもおかしくねぇだろ」
東はあっさりと言う。
「そうそう。それにあの病院に物の怪がいたのも、浄化ができたのも、莉世ちゃんのお陰だもんね。今まで気づかなかったけど、未来がわかっていたって言うのなら納得する」西久保も頷きながら納得する。
二人に受け入れられたことに、無意識に頬が緩んだ。
「でもそうか。南の南雲にそんな能力があるなんて。ヤマンバの術書に、北条の鬼神もあって、やっぱり四神じゃねぇか」
「あんたは何ができるんだっけ」西久保は茶化す。
「知ってるか? ガキで怪異が見えねぇやつは珍しいらしいぜ。俺は珍しい人間なんだ」
開き直った東に、西久保は肩をすくめた。
空を見上げながら歩く。真っ赤に染まった空は妖艶で、異世界へ誘うような暗さだった。しかし、そんな空の下を三人で歩くと不思議と恐いと感じない。
莉世の中で、ひとつの覚悟ができた。
現実から目を逸らさないと決めたからには、自分でできることはただひとつ。
今後起こる未来を受け止めて立ち向かうこと。
未来は簡単に変えることはできないのかもしれない。だが、現実の行動を変えることで未来が変わる可能性はある。まだまだ夢についてわからないことはたくさんある。だが、時間はかかってもひとつずつ受け止めていくことで、理解できていくはずだ。
「じゃ、莉世ちゃん、またね」
西久保の声で我に返る。いつの間にか別れ道まで辿り着いていた。
「南の南雲も疲れたよな〜しっかり休めよ」
東はそう言うと、じゃ、と手を掲げる。
莉世も軽く手を振り、自宅へと歩き始めた。
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