随分と長い時が立った。
莉世たち「守護隊」として藍河稲荷神社小川でホタルを見送るのも、もう十回目となっていた。
「何度見ても思うが、すげぇ数だよなぁ」
東は周囲を見回しながら言う。その声は落ち着き、背も随分と高くなっていた。
「だよね。でも、すごくきれい」
西久保は、手を掲げながら言う。その薬指には指輪がはめられていた。
「もう十年か……」
北条は、空を見上げながら呟く。東と同じく声も落ち着けば身長も伸び、顔面の良さが際立った。
「ふふっ、早いよね」
莉世は、満足気に笑う。西久保と同じく薬指には指輪がはめられていた。
中学生の時に組んだ東西南北同盟。すでに由来は変わったものの、今でも四人で集まっていた。
ホタルの光は、実家のような安心感を抱く。過去を知った今では、それも納得できた。
燐音の最期を思い出す。彼女は虹ノ宮を救ったことで、時期外れでありながら大量のホタルに迎えられた。そんな中で見送られる彼女は、少しだけ幸せそうに見えた。
――――見守られるのは案外、気分が良いものです
一人寂しく死ぬのではない。そう思うと、不思議と未来は視えずとも警戒しなくなった。
水月が過去を見せてくれたお陰で、様々な人間の人生を知り、そして感情を知ることができた。
「あの二人が果たせなかった約束、皆で叶えられて嬉しいな」
そう呟くと、北条は目を細めて笑った。
莉世と北条の前に、眩く光るホタルが過ぎる。他のホタルとは違い、真っ白に明るい光を放っていた。
かつての土地神である彼の頭髪と重なった。
「少し、水月が嫉妬しているのかな」
「水月が?」
北条は問うも、莉世は愉快そうに笑った。
『夢現の恋蛍』 完