一週間ほど、私は同じことを考えていた。
もちろん、土屋さんのことだった。
おまえは、どうしたいんだ。
誰かが頭の中で問う。
怖い。別れることになったら、私が、土屋さんがどうなるかが怖い。
もう答えは出てる。別れなきゃいけない。
このままだと、私が潰れてしまう。
電話にしようか考えたが、感情が出る気がしてメッセージにした。
もう何も考えない。考えてはいけない。
私は愛されたいわけじゃない。
私は、皆と空が見たいんだ。
『別れよう』
口で言えないからメッセージにした。こういうところもずるいなと思う。
感情に引っ張られやすい私だ。絶対に声を聞けば、また言えなくなる。
彼のことなので、恐らく電話がかかってくる。せめて一番伝えたい言葉だけは確実に伝わる方法で伝えることにした。
案の定、すぐに電話がかかってきた。私は、恐る恐る通話ボタンを押す。
「空……空………!」
土屋さんは電話の奥から泣いている声が聞こえる。私はグッと耐えた。
「何でなんだよ……俺、空がいないと本当にダメなんだ……空がいないと……だから別れるなんて言わないでくれ……何でもするから……」
必死。全てを出し切って必死さが伝わってきた。切羽詰まっているのは感じる。
飲まれてはいけない。じゃないと今までと変わらない。
何かあったら、俺のところに来い。
力強い言葉が後押しする。
私の為にも、前に進まなければいけないんだ。
土屋さんに大人っぽさは微塵も感じられなかった。だからこそ心からそう思っているのだと感じられた。
ここで引いてはいけない。そのままだと私だってダメになってしまう。
「ごめんなさい。でも一緒にはいられない」
「なんで、なんで空……」
「ごめんなさい……」
ひたすら繰り返すしかなかった。
震えてしまう。耐えられなくなり、電話を切った。すぐ着信がつくが、気づかないふりをした。
これ以上、彼の声を聞いてしまったら、確実に飲まれてしまう。
しばらくすると、着信が止んだ。自分から言ったくせに、涙が溢れてきた。
二年前に憧れた先輩との最後は、あまりにもあっさりしたものだった。
本当に、この選択で良かったのだろうか。私は間違えてしまったのだろうか。
この先こんなに私のことを愛してくれる人なんて出てくる気がしなかった。でも、だからと言って、一緒にはいられない。
少しだけ金城たちに憧れてしまった。金城と月夜みたいにお互いを大事に想い合う関係に憧れた。
私もあの二人みたいに愛されることだけじゃなくてお互いがいる関係を築くことができるのか。
勇気が必要だったのかも。それをくれたのは、間違いなく天草だった。
私はスマホの電源を切った。そしてそのまま布団にダイブした。
再びじわりと目から涙が溢れてくる。
これが後悔になってしまうのかわからない。恋愛に答えなんてないと分かっているけど、これでよかったのだろうか。でもこのままだと確実に私は落ちていった。
堂々巡りだ。今は何も考えないようにすべきだ。
土屋さんは私よりも大人なんだ。たかが私一人ぐらいで彼がどうなるかなんて思わない。
土屋さんは、火野さんとは今でも普通に話している。指輪を買うほどの繋がりだったはずなのに。
彼らのような関係に戻れる気がしないが、時間が経てばその日が来ると信じてる。
私は枕に顔を埋めた。何も考えないようにしたいのに頭が勝手に考えてる。
本当にこれでやっと自由になれた。
自由、だなんて苦笑する。私はいつからそんなことを行うように思っていたのか。彼のことが好きだったはずなのに。彼のことばかり考えていたはずなのに。
いつしか一緒にいるのは当たり前になってしまって、おかしくなったのは私の方なのだろうか。
考えれば考えるほど、自分のせいのように思ってくる。本当に今日は何も考えない。
通知音が鳴った。着信ではなくメッセージだ。
恐る恐るスマホを見た。
また私は、空を見上げる余裕がなくなっていた。
彼が、また私を上に見させてくれた。
「空、すげぇきれいだぞ」
送信者は、天草だった。
***