高校生棟と中学生棟の中間に位置するラウンジに辿り着く。
壁に大型テレビが設置され、そばにはラジカセやDVDプレイヤーなどの機械類が置かれている。ソファがいくつも備わり、ガラス張りの窓の奥には、芝生の敷かれた庭が広がる。
普段はこの場で、談笑したりオセロやトランプをしたりする生徒が見られるが、今は早朝ということもあり誰もいない。
「やったー! 貸し切りだね」
渚は嬉々として、機材の備わっている棚に近づく。
ラジカセとCDらしきものを手に取ると、中央の机の上に置いた。
「ラジオ体操とか、覚えてないけど」
蓮は、頭を掻きながらぼやく。
「こうして飛び跳ねて腕を伸ばすものとかあったよね〜」
美子は、その場でぴょんぴょん跳ねながら、腕や脚を開いたり閉じたりする。
「音楽聴いたら思い出すって! 小学校の夏休み中は、毎日やってたじゃん」
「そういえば、やってたっけ」
祐介は、天井を見上げて軽く笑う。
確かに小学生の頃は、夏休み期間中、町内で早朝から行われるラジオ体操に通っていたことがあった。
決められた回数通ってスタンプを集めると図書カードがもらえる、ということで、町内が同じ私たちは、一緒に参加していたのだった。
「このラジオ体操は、スタンプもらえないの?」
美子は渚に素朴に問う。
「スタンプはもらえないけれど、もっと素敵なものが得られます」
渚は自信満々に胸を張る。
「素敵なもの?」
何か特典があると思っていなかっただけに胸が高鳴った。
渚は含み笑いで私に振り向くと、ピッと人差し指を立てる。
「朝から運動することで、脳や身体が活性化され、学校生活が豊かになります」
私の頬が痙攣した。
あながち嘘ではないだろうが、何だかやりがい搾取のようだ。
ラジカセの置かれた中央の机を囲うように適度に場所を取った。
渚がラジカセのスイッチを押すと、軽快な音楽が流れ始める。
久しく聞いていなかったその音に、どこか懐かしさを感じた。
「懐かしいな」
祐介も軽く笑いながら言う。同じことを思っていただけに素直に同意した。
忘れていると思っていたものの、意外と身体は覚えていたようで、音楽に合わせて流れるように四肢が動く。ゴールデンウィークでたるんだ心身が引き締まっていくようだ。
「蓮、目瞑りながら動いてるし!」
誰よりも張り切って身体を動かす渚が声を上げる。
「意識はありまーす」
そう答える蓮の目は、確かにほぼ閉じていた。
目前にある大きなガラス張りの窓から、暖かい日の光が差している。
今日は快晴だ。昨夜の天気予報でも、しばらく過ごしやすい日和が続くと言っていただけに、早朝の体操も良いものだな、と内心思う。渚の思う壺のようで口には出さないが。
「今日はこれで終わり! じゃ、また明日も六時に集合ね」
体操が終わると、渚は嬉々として宣言する。
「ねぇ、せめて六時半にしない?」私は提案する。
「確かに。まだ食堂開くまで時間あるもんな」
こいつとかほぼ寝てるし、と祐介は蓮の様子を窺う。
「おなかへった~」美子は力なくお腹を擦る。
渚は不服そうに頬を歪めるも、「仕方ないわね」と観念する。
「だったら明日からは六時半ね。ちゃんと起きないと、また起こしに行くから!」
私たちは溜息を吐きながらも、首を縦に振った。
穏やかな朝の空気に、感化されていたのかもしれない。
体操は毎日行うとは言っていなかったはずなのに、その点について誰も反論することがなかった。
Day1 完