この日は、週に一回設けられた手術日なので、待合室には私たち以外誰もいない。
受付をすると、すぐに名前が呼ばれた。
「頑張って」
土屋さんは、優しく笑う。普段の彼は、本当に大人なのにな、と内心思う。
私は、軽く手を上げると、診察室に入った。
「緊張しなくても大丈夫よ」
顔が強張っていたのか、看護師さんは私を安心させるように笑う。その言葉で、少し肩の力が抜けた。
手術の説明が行われ、手術用の大きなイスに座る。検査の時のように衣服を着替えた。
手際よく準備が行われていく。点滴をしますね、の合図で私は目を閉じた。
「点滴に麻酔を入れていきますので、ゆっくり呼吸してください」
看護師の言葉の通り大きく深呼吸すると、次第に思考が回らなくなった。
＊＊＊
目が覚めると、ベッドの上にいた。
顔だけで周囲を見回すと、腕は点滴が繋がれたままで、そばに土屋さんが座っていた。長い時間だったのか、軽く目を閉じている。
「昴……」
小さく名前を呼ぶと、土屋さんが目を開け、そして笑った。
「お疲れさま。手術、終わったよ」
「今は、何時？」
そう問うと、土屋さんは腕時計を見る。
「十三時なるかなってところだね」
「わぁ……」
低知能な反応になる。病院に来たのは九時頃だったはずだが、もう昼も回っているとは思わなかった。
「まだ点滴はそのままで。大丈夫？ 具合悪くない？」
私は頷く。どこも痛みは感じない。点滴も繋がれているのに、違和感を感じなかった。
「あ、起きられましたね。具合は大丈夫ですか？」
様子を見に来た看護師さんが問う。私は再び頷く。
「よかったです。では、少ししたら最終検査しましょうか」
診察室に入り、いつもの検査用イスに座る。最初は躊躇ったが、もう何度も検査したことで、慣れたものだった。
医師の合図で機械が挿入される。
何度か見た私の子宮内の図。検査のたびに人型になりつつあった箇所がきれいに無くなっていた。
あれだけ悩まされた現実も、こんなにあっけなく取り除かれるものなんだ。それと同時に、何ともいえない虚無感に襲われた。
「傷もついておらず、きれいな状態ですね。問題ありません」
医師は頷きながらそう言うと、検査を終え、問診室へ促す。
「ピルは、毎日必ず飲んでくださいね」
薬の説明を受けた後、念を押される。私は深く頭を下げて病院を後にした。
私の初めての手術は、無事に終えたのだった。
「あんなに悩んだのに、こんなにもすぐ終わっちゃうんだな」
私は空を見上げながら呟く。
土屋さんは、何も言わなかった。
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