次の日。
昼休み食堂内。金城と月夜の四人で食事を取っていた。
「何となくわかってたかも」
ざるそばをすする金城は笑う。「恒星、倉木のこと好きだと思ってたし」
「なんだよそれ」
天草はやり辛そうに顔を引き攣らせる。
「だって、視線が明らかだったし」
「俺、そんなわかりやすいか?」
「少なくとも、俺には」
金城は頷く。「倉木には彼氏いたし、悔しそうだった」
「おまえな〜!」
天草が立ち上がって何か言おうとするが、「でも」と月夜が呟いたことで口を噤む。
「いいんじゃない。今は求めるような関係になったんでしょ」
月夜が軽く笑いながら言うと、天草と金城は歯痒そうに口を閉じる。
私は口元が緩みそうになり、顔をそらした。
***
「倉木ちゃん」
部活動終了後。
火野さんが声をかけてきた。業務連絡は行っていたが、改めて飲み会以来に話すので、少し畏まった。
カーキ色のブルゾンに短パンタイツと冬仕様でありながら彼女の活発さが滲み出ていた。
火野さんは、少し困惑した表情になった。
「昴に、何かあった?」
「えっ」
「学校、辞めたみたいなんだけど」
絶句した。何も知らない私の反応に、火野さんは少し戸惑う。
「ごめん、知らないとは思わなくて……。ここ最近研究室来ないなと思っていたら、昨日退学届を出したって教授から報告があって……」
土屋さんは、研究熱心だった。それに教職も取っていたはずだ。
四年生であと少しで卒業、というこのタイミングでわざわざ学校を辞めるとは、出会った頃の彼からは想像できない。
確実に、私が原因だ。
私と別れたから、私が一緒にいないから。
もう他のこともどうでも良くなったんだ。
思い上がりであれば、どんなによかったか。ただ、そう思えるほど私も鈍くない。
「空ちゃん?」
ハッと意識を戻す。火野さんは不安気に私を覗き込んでいた。
「……すみません。もう私には、関係ないことなので」
無意識に左手薬指に触れていた。
火野さんは察したのか「そっか、ごめんね」とそれ以上何も言わなくなった。
バスを降り、駅前まで辿り着く。
土屋さんの使っていた路線を一瞥する。水曜日によく会っていたので、火曜日の夜は、たまに乗ることがあった。
また、乗ることはあるのだろうか。
なんて、思い出を振り返っていた。
恋愛は、人を狂わせてしまう。
金城と水谷さんの時にも思った。二人が出会った影響で、金城も、水谷さんにも変化があった。他が疎かになるほどに目に見えてわかる異変だった。
私たちも、そうだったのかもしれない。
私は、残金や成績で実感したし、土屋さんは、学校を辞めた。
恋愛は、悪い意味で盲目になる。
家に辿り着く。風呂場で太ももの跡を見て現実を実感する。
土屋さんにつけられた跡、そして私自身がつけた跡。この先一生消えることはないのだろう。
過去の重みを背負ってまで、私は恋愛しても良いのだろうか。
第四セメスター:十月 完