第四セメスター:十一月➀



 学園祭が終わった。
 今年は、ゼミの活動もあり、また天文部もありで 三日間ほぼ毎日学校いた。
 昨年思ったが、うちの大学は、キャンパスがひとつに固まっているだけに規模が大きい。芸人さんを呼んだりアーティストなどのライブがあったりする。三日間、丸々大学で過ごすなんて、まるでドラマのような青春を謳歌した。

 天文部のイベントにはOBの人たちも遊びに来る。だが、土屋さんの姿はなかった。
 来てるわけがない。学校を辞めたのだから。

 閉会後、イベントスペースの片付けを行う。
 私は、壁の装飾を外しながら思案する。

 本当に良かったのかな、なんて不安はいまだに残る。でも、これは私が選んだ道なのだ。前に進むしかない。

「何、ボーッとしてんだ」

 癖のある強い声が届く。
 振り向くと片付け用の段ボールを所持した天草が、ムッとした表情で私を見ていた。

「メシ行くだろ。片付けさっさと終わらせよーぜ」

 この後は天草と夕食を食べに行く予定だった。

 暗くなりつつあった私を天草はいつも顔を上げさせてくれる。

「うん、ごめん。すぐ終わらせるから」
 

 学園祭が終わり、三年生が引退となった。
 役職の引き継ぎが行われる。部長は天草となった。

「騒がしい部活になりそうだ」
 先輩たちは笑う。

「後輩百人入れて、今以上に騒がしい部活にしてみますよ」 
 天草は、根拠のない自信でそう言ってのける。私たちの負担も考えてくれ。

「留学いかなかったら、満場一致で部長は金城だったよね」
 私は嫌味を言う。

「楽しい部活になりそうじゃん」
 金城は笑う。

 金城は来月末には日本を発つ。大学も休学ということで、役職にはつかなかった。

「もう来月か〜、早いね」
 私は隣に座る月夜に何気なく言う。月夜は特に驚くことなく平然としている。
 何となく悔しくなり、彼女に顔を向ける。

「寂しくない?」

「寂しいよ」

 私は目を丸くする。
 失礼だが、予想外の言葉だった。素直に感情を口にする彼女は珍しい。

「でも、留学が目的だったんだから。私は応援してる」

 月夜は、天草たちと会話する金城を一瞥する。金城の熱烈な一方通行だと思ったが、意外と彼女も、金城に惚れているんだ。出来過ぎた彼だから納得もいく。
 二人の心配はないだろう。

 月夜は、ふと、天井を見上げる。

「それに寂しくなっても、構ってくれる人はたくさんいる」

「それ、金城の前では言わない方がいいと思う」

***



 火野さんたち三年生は引退し、私たちが最高学年となった。
 天草が部長の新しい体制で活動が始まった。もう先輩という自分たちが一番上なのでしっかりしていかなければならなかった。

 だが、学園祭で全力を出し切ったことで、この一週間はのんびりとシナリオを考えたりするぐらいだった。
 それに、先輩のいない部活は、やはり気が抜ける。

「天草部長様〜。次のシナリオです」
 同期たちがからかいながら会話する。

 みんなの中心的存在な天草は、慕われていた土屋さんや火野さんとは違い、みんなからイジられ愛される部長になった。

「倉木、明日暇か?」
 終了ミーティング後、天草が問う。今でもクセで水曜日はバイトのシフトは空けていた。

「うん。暇だよ」

「じゃあさ、紅葉でも見に行かね?」

 十一月下旬。この時期はあちらこちらのライトアップが行われていた。
 うちの大学は山に位置していることから、近くにも穴場の紅葉スポットがあると言ってた。

 付き合ってから初めてのデートに心躍る。

 次の日、夕方頃に待ち合わせしてバスに乗った。

 天草とこうして一緒にどこかへ行くということは 新鮮だった。いまだに慣れない。

 末端冷え性の私は手を擦る。その様子を見た天草は、私の手を握った。
 そういえば、恋人関係だったということを思い出す。申し訳ないなと思いつつも、すぐには慣れない。

「ごめんなさい」

「謝んな。わかってっから」
 天草は言う。

「おまえは俺のことをずっと友達だと思ってたのも知ってるし、俺を意識しない、普通のありのままのお前がと一緒にいたいと思ったんだ」

 直球で伝えられて歯痒くなる。
 じんわりと心が温かくなった。居心地がよかった。

「うん。ありがとう」

 お礼を言うと、天草は、どこか照れくさそうに頬をかく。

「この後は?」

「今日は何もないけど」

 天草が黙り込む。私も続ける言葉が見つからなくて黙っていた。
 やり辛くなり、周囲を見回す。この空気感は、何となく予想はできた。

「じゃあ今晩、うち泊まる?」

 土屋さんと付き合っていた影響で、突然外泊、という経験をしたことから、常にカバンには外泊用の品は準備はできていた。

「天草が、いいなら」

 私たちは、天草の家まで帰路についた。

***