3月*三ヶ原 弥生
桜色に染まる道を歩いていた。先週までは防寒具の外せない気候であったにも関わらず、こうも季節は過ぎるのが早い。それだけ時間の流れを感じていた。「もう、この道を歩くのも、最後かなぁ」隣に歩く美歩はぼんやり呟く。「そうだね」私は手に持つ紙袋を握り…
12ヶ月連載短編
2月*二村 裕貴
二月に入ると、空気がうわ浮いていた。男連中、みんなそうだ。「おれ、甘いもん結構好きなんだよな〜」「最近糖分取ってねぇから、結構いらいらしやすくて」わかりやすすぎる。男は馬鹿だから露骨なんだ。かくいう僕も、妙にソワソワしてしまった。この時期は…
12ヶ月連載短編
1月*一膳 勝穂
「開始」その声が響き渡った瞬間、一斉に紙をめくる音が鳴った。それと共に、カリカリカリとシャーペンが机を忙しなく引っ掻き始める。その音に気圧されるように、私も慌てて紙に記載された問題を確認する。紙に羅列した数式は、どれも馴染みがあるものばかり…
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12月*十二間 梅
チラチラと粉雪が舞っている。辺り一面、白くて硬い雪に覆われ、時折吹く北風には身を刺すほどの冷気を孕んでいる。寒気から自然と身が縮こまるも、この街に雪が降るのは珍しいことから、少し高揚している自分がいた。師走とはいえ、先週までは防寒具の必要の…
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11月*十一川 兼士
赤、黄、茶。目前に広がる木々は、この時期限定の色を見せている。内心心躍るも、目下から届く人の声に何度も現実に引き戻される。それもこれも、「限定」という言葉に弱い彼女を持つからだ。「どこを見ても、人、人、人」俺の正面に座る実帆は、額に手を当て…
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10月*十倉 神無
頭上には雲ひとつない青空が広がっていた。だが真夏のように蒸し暑い湿気は感じず、肌を照らす日差しも心地良い。時たま吹く風には冷気を孕み、並木道を彩る落ち葉の軽い音は程よく耳に快感をもたらした。これが「秋晴れの空」というものだろうか。「体操服で…
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9月*九条 菊
廊下窓の外から、部活動に勤しむ人たちの叫ぶ声が届く。目に優しい温かみのある穏やかな陽の光と、少し肌寒い秋風からも、日中とは色の違う顔を見せていた。放課後時間まで学校に残る経験がほぼなかっただけに特別な時間に感じる。「明日で終わるかなぁ」友人…
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8月*八王子 圭
真っ青な空に、大きな入道雲が映える。天高く響き渡るブラスバンドの声に、快音が鳴るたびにどよめく観客席、球場にいる全員が一心に白球を追っていた。画面越しでも熱い空気が伝わり、僕らを震撼させた。甲子園という場には何かが宿っているだなんて言われて…
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7月*七海 富美
「おねーちゃん、スイカ持ってきたよ」その声と共にドアが開かれる。私は動かしていた手を止め、振り返る。「わっお姉ちゃん、もう宿題やってる。真面目!」「そうだね。人の部屋に入る時は、例え身内でもノックをするくらいに真面目ではある」私は皮肉を口に…
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6月*六車 純
雨は嫌いだ。登校中に靴下がずくずくになるし、雨粒で蒸らされた土臭い匂いや湿気が身体にまとわりつく。教科書やノートもしっとりとし、授業もやる気がなくなる。まぁ普段からやる気は無いのだけれど。何よりせっかく先週プール開きだったのに、中止の代わり…
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5月*五十嵐 沙月
「何もやる気が起きないなぁ…」着用しているスーツが汚れることをも躊躇わず、地べたに座り込み、空を覆う木々の葉を見ながら僕は思う。腕時計の時刻は、もうすぐ午後1時を示そうとしている。会社の昼休みが終了する時間だ。だがどうしてか、腰は地面に磁石…
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4月*四ノ宮 陽介
視界が真っ白で何も見えない。目を閉じていると暗くなるはずだが、今は何故か明るかった。じりじりとした陽光で肌が火照り、脳が徐々に活動を始めたことで、あ、朝になったのか、とようやく気づく。瞼の裏から感じる日の眩しさに、目を開ける前に思わず額に手…
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