檸檬と彗星

2頁目「脇役から主人公」①

 週明けの月曜日。今日は、オレンジ色のマスクを着用した。  私の勘違いかもしれないが、このマスクを着用していると、素直に話せるような気がした。席替えにより周囲の環境がガラッと変わったので、気合を入れるためにも根拠のない力にすがることにした。…

1頁目「日常から非日常」➆

 金曜日の午後は、ホームルームのみで終わる。担任が「席替えするぞ」と発したことで、教室内がざわついた。 座席環境によって交友関係が左右される席替えは、生徒にとったら重大イベントだ。だが担任にとったら、ホームルームを埋める都合のいい時間つぶし…

1頁目「日常から非日常」➅

 惟月は、金清高校の制服を着ていたが、純粋な瞳にクセの無い髪、言動全てに気品が感じられ、同じ公立学校に通う生徒とは思えないほどの佇まいだった。その時点で、私の中では普段では感じられない小さな異変だった。 だが、それだけではない。惟月は「一言…

1頁目「日常から非日常」➄

「え、俺が?」 ワンテンポ遅れて、暁は面食らったように困惑した。その反応から、いまの幻聴が私の口から飛び出たものだとやっと気づいた。―――――かっこいいね。 脳内で思った言葉が、口に出ていたのだろうか?「ごっ ごめんなさい……! 私、今変な…

1頁目「日常から非日常」④

次の日の朝。朝食を済まし、身支度を終えると、昨日購入したマスクを手に取った。三十枚入りのため、箱は一ヶ月は使用する。その為、新しい箱を開ける際は、妙に慎重になるものだ。鏡を見ながらマスクをつける。私は周囲の人よりも髪や目の色素が薄く、鮮やか…

1頁目「日常から非日常」③

空はまだ明るい。一年でも数少ない過ごしやすい気候で、まだ帰宅するには惜しく、私はもうひとつのお気に入りの場所へ向かうことにした。だがそこで、マスクがなくなりそうだと思い出した。私にとってマスクは欠かせないものだ。そして厳しい校則の中でも許さ…

1頁目「日常から非日常」②

午前の授業終了のベルが鳴る。それと同時に「食堂行くぞ」と暁筆頭に、クラスメイト数人がバタバタと教室を飛び出した。嵐が一瞬のうちに過ぎ去ったようだ。他にも売店へ向かうものもいるが、ほとんどの生徒は、自分の席でお弁当を広げていた。私の通う金清(…

1頁目「日常から非日常」①

「うしろ、通ります」 その一言が言えなかった。喉まで息が通らず、唇が接着されたように開かず、言葉として紡げない。そのため、通路が人で塞がれて通れないときは、遠回りしてでも別の道を使う。 だがいまは朝の登校時間、すなわちクラスメイトと自由に話…

初頁

「機嫌、悪い?」一瞬、自分に向けられた言葉だと気づかなかった。ワンテンポ遅れて顔をあげると、机を合わせた班の人たち三人が、こちらを怪訝な顔で窺っていた。「応援曲の候補、班ごとに提出だからさ。夕雨(ユウアメ)さんも、なにか意見あるかなって思っ…