○○からのオクリモノ

6【秋月 梨斗】①

平日夕時の学校。校舎の壁は、ところどころ見られるひび割れからも年季が感じられ、足元には、放置された雑草が生い茂っている。授業が終了したことで上機嫌に下校する生徒の声が、校舎裏のこの場まで響いていた。「今週だけでも暴行三件、窓ガラスやドアなど…

5【火宮秋奈】③

滔々と話していたが、目前の赤髪の少女は黙って聞いていた。自分と向き合う為の幻影なんだな、と改めて実感した。少女は暫し黙ると、私をまっすぐ見る。「でも、それだったらおかしいわ」「おかしい?」予想外の言葉に私は目を丸くする。「だって、今の環境で…

5【火宮秋奈】②

私は再び外出していた。赤髪の少女と銀髪の青年が現れたのは事実なのかがわからないが、帰宅の際に購入したはずの親子丼が空になっていることは、紛れもなく現実だ。先ほども訪れたコンビニに入店すると、まっすぐチルド弁当の並ぶコーナーへと向かう。運良く…

5【火宮 秋奈】①

秋は気候が良いことから、何かを始めるのに適した時期であり、「○○の秋」だなんて言葉を各所で耳にするものだ。実りの秋、食欲の秋、音楽の秋、運動の秋、行楽の秋、読書の秋、芸術の秋…。軽く思い浮かべるだけでもいくつも候補に挙がり、どんな秋かは人そ…

4【夏原 杏里】④

「失礼な人ね」夏原は呆れたように両手を広げる。「かわいい後輩の姿が見えてないなんて」冗談のように口にした夏原だが、リンたちは答えない。「ちょっと……何?」夏原は困惑した顔で尋ねる。時間がないことから、もう隠す必要もないか、とリンは観念して彼…

4【夏原 杏里】③

三日目、リンたちの姿は再びテレビ局にあった。玄関の広いロビーを抜けて、ドラマや映画のポスターの飾られている廊下を抜ける。『スタッフ以外立入禁止』と掲げられている看板を横目に、奥の副調整室へと向かった。昼食後の午後ということで、気だるげに照明…

4【夏原 杏里】②

隣の病室のベッドの上には男性が眠っていた。チューブや点滴など医療器具をたくさん身体につけられ、かろうじて息が持ってるとわかる。そんな彼の胸元からは茎が伸び、もうすぐ開花時期なのだろう、先端には蕾をつけている。その蕾が開く瞬間を、彼の傍で今か…

4【夏原 杏里】①

薄暗い間接照明に照らされ、雰囲気ある空間に一人、若い女性が佇んでいた。胸元まで真っ直ぐ伸びた栗色の髪に、紅色で惜しげもなくストーンのあしらわれた華やかなドレスを身に纏っている。ピアノのしっとりとしたイントロが流れ始めると、彼女は所持していた…

3【清水 夏帆】⑤

その後、警察や救急隊員の話から、ナツは足を滑らせて川で溺れたことが死因だと判明する。誰も真実を知る術を所持していないことから、何故、遺体が川のそばに上げられていたのか言及はされなかった。だが、私には何となくあの死神の仕業ではないのか、と思っ…

3【清水 夏帆】④

「仕方ないやん。私には見えてるものが、他人には見えてへんとかの判別が、私にはできひんし……無視することも、昔の私にはできひんかった……」感情が激昂していたことに気づいて顔を下げたことで、語尾が弱々しくなる。ナツのように、もっとポジティブに考…

3【清水 夏帆】③

大自然に囲まれた森の中を走る。私は足を進めながら周囲を見回す。持久力がなく、運動は苦手ではあるものの、普段走る廊下の固い地面ではなく、柔らかい土が足への負担を軽減し、さらに自然に囲まれた中走るのは心地いいものだった。無意識に大きく息を吸う。…

3【清水 夏帆】②

「ミーティングでは、定演の楽曲を決めます」部長が今日の練習メニューを発表する。普段とは違う内容であることに、後輩たちから心なし安堵の息が漏れる。昨日、無事に金賞を受賞してコンクールを終えたことで、ナツの言っていたように、今日からは九月に行わ…